フラグを全力で育てる系女子の恋愛事情〜なぜか溺愛されてますが〜
陽子さんはちょっとごめんね、と言いながら席を立つと、スマホを持ってカフェの外へと出ていった。

私は足をプラプラさせながら、アイスココアを一口飲む。

陽子さんの言ってたこと、なんとなくだけど凄くしっくりきた。

もし「あれは冗談だった」とか言われたら、思わず手が出ちゃいそうだけど。でも藤君は、そんな風に人を弄ぶタイプじゃない気がする。

だから、もっとちゃんと藤君と会話してみよう。

「…ふぅ」

無意識のうちに溜息が出る。

家族とも友達とも憧れとも違う“男の子”って存在を、もしかしたら初めてちゃんと意識したかもしれない。

恋したい、彼氏欲しい、キラキラしたいって思ってたけど、妄想と現実は違った。付き合うどころか、その前の前くらいの段階で、こんなに悩むことになるとは。

実際に恋愛フラグ立ったらどれだけ楽しいのかと思ってたけど、やっぱりリアルは漫画やドラマの世界とは全く違うみたいだ。

だけど、陽子さんのおかげで余計な悩みがなくなって心がスッキリした。



「ごめんね、小夏ちゃん」

颯君との電話を終えたらしい陽子さんが、小走りで戻ってきた。

「颯、ちょっとここに来ても大丈夫かな?」

陽子さんは申し訳なさそうな顔でそう口にする。

「あ、私帰りましょうか?」

「ううん、今日小夏ちゃんさえよければ一緒に夕飯食べよう?」

「でも、颯君は」

「週末三連休でしょ?あの子バスケの遠征行くんだけど、そのお金今日までだったの忘れてたんだって。だからここに取りにきて、またすぐ学校に戻って顧問の先生に渡すって」

「あ、そうなんだ。遠征なんて凄いね」

「バスケ馬鹿だからね、あの子は」

フフッと笑う陽子さんは楽しそうだ。

颯君はずっと体が弱かったってお父さんが言ってたけど、元気になってしたいことができるようになって、ホントによかった。

私でもそう思うくらいなんだから、陽子さんはもっともっと嬉しいに決まってる。

「だからもうちょっとここにいてもいいかな?ごめんね小夏ちゃん」

「ううん、大丈夫」

「ありがとう」

それからまたしばらく陽子さんとお喋りをしてたら、颯君がカフェに入ってきた。背が高いから、凄く目立つ。イケメンだしね。

「こんにちは、颯君」

「うす」

颯君は私を見ても表情を変えないまま、少しだけ頭を下げた。

この前見た時は私服だったけど、今日は制服だ。真っ白な半袖のカッターシャツが、彼を一層輝かせてみせてる。

スラッとしたスタイルにスッキリした短髪、今時の端正な顔立ちの颯君は今日も絶賛イケメン君だ。
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