フラグを全力で育てる系女子の恋愛事情〜なぜか溺愛されてますが〜
華はパックのカフェオレをジューッと吸う。私のお弁当の中身は、まだほとんど減ってなかった。

「まぁ、リアルなんてそんなもんよ。マンガやドラマみたいに上手くいくことばっかじゃないんだから」

「それは…そうだよね」

「でもさ、フラグがどうのこうの言ってた小夏がまさか、ねぇ?」

「う、うるさいな」

バカみたいだけど、あの時は真剣だったんだから。

「とにかく藤君への態度はどうにかしないと、あれじゃあ逆に嫌いだと思われるよ」

「えっ、う、嘘!」

「避けてるようにしか見えなかったし」

それは嫌だ…藤君のこと傷つけないように、しっかりしないと。

「ほら、予鈴なっちゃうから早く食べなよ」

「うわ、ホントだ!」

すっかり食べ終わった華は、お弁当箱を覗き込みながら言う。私は慌てて、残りを口に詰め込んだ。




「うぅ…急いで食べ過ぎた」

残したくなくて無理したから、ちょっと気持ち悪い。胃の辺りをさすりながら、ふうっと溜息をついた。

「小夏、ちょっと太ったでしょ」

「やっぱ分かる?スカートがキツくてさぁ。さっき見たらホックの糸が朝より緩くなってるし、帰ったら直さなきゃ」

スカートのホックを指で軽く触った途端、パチンと小さな音を立ててそれが完全に取れた。

「華!ホック取れちゃった!」

「え、嘘」

「どうしよう!」

糸がほつれて取れたホックが、ウエストにぶら下がってる。それを引っ張ったら、カシャンと床に落ちてしまった。

「あれ?なにこれ」

最悪なことに、ちょうど教室のドアから出てきた江南君がそれを拾って、マジマジと見る。

「ご、ごめんそれ私の…」

江南君に向かって手を伸ばしかけて、その後ろに藤君とクラスの女子がいることに気付いた。

「あ。それスカートのホックじゃん、ウケる」

女子がそう言った瞬間物凄く恥ずかしくなる。

「ちょっと取れちゃって。あ、あはは」

江南君の手からパッと取ると、私はスカートを押さえながら小走りで教室から飛び出した。

あれ以上あそこにいたら、恥ずかしくて死ぬ。よりによって藤君に見られた。教室になんか絶対戻れない。

ジワッとにじむ涙を拭う気にもなれなくて、私はただひたすら前に足を進めた。
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