フラグを全力で育てる系女子の恋愛事情〜なぜか溺愛されてますが〜
スカートのホックが取れたくらい、いつもなら「太っちゃった」って笑いながら言えることなのに。

藤君の前だと、知らない自分が顔を出す。

「はぁ…っ、もう最悪だよ…」

肩で息しながら、中庭で走るのを止めた。まだ本鈴は鳴ってないけど、もうほとんど人は残ってない。

横にファスナーが付いてるから、ホックが取れたからってずり下がったりしない。でもセーラー服は丈が長くないから、ホックの部分がピロンと不格好になってるのを隠せない。

保健室に行ってなんとかしてもらおうと、クルッと踵を返す。

「相崎さん…っ」

その先には藤君がいて、私は慌ててホックのところを手の平で隠した。

「大丈夫?」

「う、うん」

藤君に恥ずかしいところ見られたのが嫌で逃げたのに、まさか本人が追いかけてくるなんて思わなかった。

よく見ると藤君の頬っぺたは赤くて、肩が少し上下に動いてる。

わざわざ、走ってきてくれたんだ。そう思ったら胸が苦しくなって、ギュッとスカートを握り締めた。

なにを話していいのか迷ってると、藤君が急に自分のシャツを脱ぎだす。私はギョッとして、目を瞬かせた。

「ち、ちょっと藤君!?」

「これ、よかったら腰に巻いて」

藤君は脱いだカッターシャツを私に差し出す。

「え…」

「俺はTシャツ着てるから」

藤君ははにかみながら、自分の黒いTシャツの裾をチョンと引っ張った。

なにその仕草…可愛い。

なんて、そんなことを考えてる場合じゃない。
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