フラグを全力で育てる系女子の恋愛事情〜なぜか溺愛されてますが〜
ーー藤君から借りたシャツは、結局腰には巻けなかった。でも返すタイミングもなくて、持って帰ってきちゃった。

「小夏ちゃん大丈夫?ボーッとしてるけど」

三苫さんが、私の顔を覗き込む。

「もう閉店作業終わったよ」

今日お父さんは、取引先のお肉屋さんと飲み会に行ってていない。だから三苫さんと二人で店を回したんだけど、ボーッとしててめちゃくちゃ迷惑をかけてしまった。

「ごめんなさい、三苫さん」

他人に迷惑かけるなんて、最低だ。

「体調が悪いわけじゃないんだよね?」

「それは大丈夫です」

「よかった」

ニコッと笑う三苫さんは、いつもと変わらず優しい。夏休みの間も何度か勉強を教えてもらったし、休憩中に一緒にアイスを食べたりもした。

三苫さんといると、お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかなって思う。

二人きりでも、全然緊張しない。

バイト終わりでもギトギトしてない、爽やかなイケメン。この前切ったばっかりらしいマッシュパーマスタイルも、よく似合ってて凄くオシャレだ。

「なにかあったの?俺でよかったら話くらい聞くから、いつでも言ってね」

「いつもありがとうございます、お兄ちゃん」

私の言葉に、三苫さんの動きがピタリと止まった。

「あっ、ごめんなさい。嫌な冗談でした?」

ちょっと調子に乗っちゃったかも。

「謝らなくてもいいよ」

三苫さんは、変わらずに優しい笑顔のまま。

だけど少しずつ距離を詰められてる気がするのは、気のせいかな…

「ただ、お兄ちゃんはちょっと」

「ご、ごめんなさい」

いつのまにか、私の体はカウンターに追いやられてる。三苫さんはその横に、トンと手を付いた。

ち、近…っ

いつもと違う雰囲気に、どうしたらいいのか分かんない。

「気を許してくれるのは嬉しいけど、出来れば男として意識してほしいな」

「あ、あの、三苫さ…っ」

「俺は小夏ちゃんのこと好きだよ。もちろん、女の子として」

いつも通りのキレイな笑顔に、目が離せなくなる。

「ごめんなさい…っ」

気がつけば私は、三苫さんの肩を押していた。
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