断罪された公爵令嬢は婚約者の兄に囚われる




「ヴィクトリア、君との婚約は破談とさせてもらう」

 今日正式に私の婚約者となるはずだった、第二王子のイーサン殿下の口から残酷な言葉が紡がれる。

 我々の婚約発表パーティーの最中、男爵令嬢であるリリアン様の肩を抱いて登場したかと思えば、強い目線でこちらを睨んでいらっしゃる。
 招待した高位貴族が、まるでショーを見るかのように、声を潜めて、器用にざわめく。

 婚約発表の主役しか白いドレスを着てはいけないというマナーがあるのに、リリアン様の衣装は、ホワイトで統一されている。しかも王族しか許されていない、私が頂くために作られたティアラを被って。

 破談にするならば、婚約パーティーの前に内々で決めて欲しかったと、ため息をつきそうになるけど公爵令嬢としてのプライドが許さず、必死に飲み込む。

 扇で口元を隠して、どうしたものかとお父様とお母様の方を目線だけで様子を伺うと、二人とも怒りに震えてた。両陛下は青ざめている。なんてこったい。

「おい、無表情女。何か言ったらどうなんだ」
「イーサン、あんまり威圧したらヴィクトリア様が可哀想ですわ」
「あんな女に気を使うなんて、リリアンはまるで女神のようだな」

 軍人でもあるイーサン殿下は鋭い目でこちらを睨みつけてくるが、リリアン様には優しげに目尻が下がる。
 ……婚約者になるわたくしですら呼び捨てを許されたことがないのに。

「一体、どういう事でしょう。婚約者になるものがいるのに、恋人がいらっしゃって、そのお相手とご結婚されたいということなのかしら?」
「白々しいな、ヴィクトリア。君はリリアンに嫉妬し、強姦(ごうかん)を指示していたんだろう」
「強姦ですって? 何故私がそんな面倒な事を。そもそもこの婚約は王家と公爵家の血の繋がりを強固にするため望まれた物でした。結婚を約束されているのに何故私がそんな事をする必要があるのです?」
「よく回る口だな。お前以外に誰がそのようなことを計画するというのだ」
「つまり証拠はないのに、身に覚えのないわたくしを責め立て、犯罪者にしようとしていると」

 そもそも強姦にあっただなんて……想い人が処女を失ったという醜態(しゅうたい)をよくパーティーで公言するな……。ここまで単細胞の馬鹿だと思わなかったわ。アホらしい。

「婚約の取りやめについては承知しました。ですが、裁判をするのならば公平な判断が出来るような人選をお願いしますね」
「裁判をするまでもないよ」

 コツコツと優雅な足音を立てて現れたのは、第一王子であらせられるジャック皇太子殿下だ。
 イーサン殿下はかなり頭が弱いけど、ジャック皇太子殿下は秀才と言われている。

 そんなジャック皇太子殿下が裁判するまでもないとおっしゃっている。もしかして、わたくしは、ジャック皇太子殿下にも断罪されるのだろうか。

 イーサン殿下のことは別に慕っていないので婚約がなくなったところで、わたくしには問題ない。
 けれど、ジャック皇太子殿下については何をされるのか、想像も付かず、恐ろしくて手が震える。


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