断罪された公爵令嬢は婚約者の兄に囚われる



 にこやかにイーサン殿下が笑う。しかしジャック皇太子殿下が冷めた目つきをしていた。

「兄上が味方してくれるだなんて心強い」
「ふふ、馬鹿な弟がいると困るね」
「きゃあああ」

 ジャック皇太子殿下は、リリアン様の白いドレスに向かってグラスを投げる。必然と、赤ワインを白いドレスは、赤く染められていく。

「兄上、リリアンになんてことを……!」
「白いドレスは今日の主役であるヴィクトリア嬢しか似合わないからね。色を変えてあげたんだ」

 床にまでポタポタと赤ワインがたれている衝撃的なシーンに唖然とするも、平然としたジャック皇太子殿下は、こちらに向かって、歩みを進める。

「ヴィクトリア嬢、こんなに震えてしまって……。本当に申し訳ない」
「兄上!? なぜその女に……」

 眉毛を下げて、子犬のような表情を作ったジャック皇太子殿下は、私の手をぎゅっと握る。ひいいい!! お美しいご尊顔が目の前に……!!

「もう安心してね。僕が守ってあげるから」と耳元で囁かれ、耳まで赤く染まってしまう。うひゃああ……!

 実はわたくし、ジャック皇太子殿下のお顔がとても好みなんですの。ほら、あの涼やかな目元とか、サラサラな髪の毛とか、笑顔の奥の腹黒さとか堪らなくてですね。しかも中性的な見た目なのに、とても肩幅が広くて頼りがいのあるところも素敵で……!!

 だから、こんなに間近で、完璧なお顔を拝見して、手を握ってもらえて、天にも昇る心地です。
 扇で顔を隠そうにも、赤面しているところを隠せていないでしょう。ええ。

 興奮しているのを、表に出さぬよう、必死に隠していると、ジャック皇太子殿下が私の手を離し、片手を上げると声高らかに宣言した。

「衛兵! イーサン第二王子と、リリアン男爵令嬢を捕らえよ! 公爵令嬢への侮辱罪で拘束とする」
「え? あ、兄上? そ、そんな……やめろやめろおおおおお」
「いやああああ!!! 触らないで!!!」

 まるで打ち合わせでもしていたかのように、衛兵は迷いなく第二王子と男爵令嬢を拘束する。そして、ジャック皇太子殿下は、リリアン男爵令嬢を指さして、口を開く。

「ーーリリアン男爵令嬢は、複数の男と乱交をしていたことがイーサンにバレて、咄嗟にヴィクトリアに嵌められたと言ったようだな? この罪、軽くないことを明言する」
「リリアン、それは本当なのか?!?!?」
「そんなの嘘よ!!!! なんで私がこんな目に……こんなはずじゃ……」

 二人は衛兵に連れ去られ退場。パーティー会場は、混乱していたが、すぐに陛下によって収められた。

 パーティーは開かれてまもなく解散となり、両親の元へ行こうと足を進めるが、手首を掴まれた。振り返ると、私を助けてくれた、ジャック皇太子殿下だった。……イケメンだわ……。眼福……! 手までゴツゴツして素敵……!

「ねぇ、ヴィクトリア嬢。一緒に来てもらえる?」
「え、えぇ。勿論ですわ」

 ジャック皇太子殿下に手を引かれて、会場を出ると、たどり着いた先は、私室のようだった。ま、まさか、ジャック皇太子殿下のお部屋じゃないわよね……? 何だか良い香りがするのだけれど……!

「あの、皇太子殿下……?」
「全く君は、僕のこといつも熱っぽい目で見ているのに、イーサンと正式に婚約しようとするなんてびっくりしたよ?」
「えっ」

 心の中でイケメン拝んでいたのバレてた!? というかジリジリと皇太子殿下が迫ってくるのはなんで!?

 身の危険を感じて、一歩、また一歩と下がると、同じ分だけ近づいてくる。ひいいい、顔が完璧すぎるよぉぉ。
 とうとう殿下のヒジが、わたくしの顔横の壁にドンと、勢いよく突かれる。

「もう逃がさないよ。君は僕のものになったんだから」
「ど、どういう……? ジャック皇太子殿下は隣国の皇女と婚約されていたのでは?」
「あぁ、皇女なら死んでしまったから、婚約は無くなったんだ。心配いらないよ」
「死っ!?」
「君がヤキモチ妬いてくれるなんて嬉しいな」

 会話が噛み合いませんね……? うわわわ、顔近い! どんどん近づいて……!?? 顔近すぎて無理息できない…顔が百点満点だし、中低音の透明感のある声も良いってどういう事でしょう……!??

「僕たちの仲を邪魔する弟とあの女は、偽の情報を流したら想像以上に手のひらで踊ってくれたよ。ふふっ。陛下には弟に何かあればヴィクトリアとの結婚は僕が代わるって話がついているし、もう僕らを妨げる障害はないよ。安心してね」

 好きな顔が目の前にあって、緊張で息を止めていたからか、ボーッとしてきて、話は聞こえるが、内容が入ってこない。

「何事にも動じないお人形みたいなヴィクトリアが、僕の事になると感情が動いて息をするんだ。そんな君の事、愛しているよ。もっと僕で一杯にしたいな。ね、ジャックって呼んでみて」
「……うぁ、ジャック、さま……!」
「かわいいね。僕はヴィーと呼んでも?」
「はい」

 ジャック様は、目を細めると、わたくしの顎を持ち上げて、流れるようにキスを落として下さった。
 嗚呼、わたくしはジャック様のこと、好きになってもいいんだ。結婚出来るんだ。多幸感で胸がいっぱいになって、もう死んでもいいかもって、馬鹿みたいに心がふわふわとする。

「ヴィー、どうか僕以外をその綺麗な瞳に映さないで。君の目に他のものが入ると、きっと僕は壊してしまうから。約束だよ?」
「はい。ジャック様もわたくし以外の人に触れないでくださいませね」
「勿論だ」

 自然と重なる唇。何度も角度をかえて、約束のくちづけを繰り返す。
 ──ファーストキスは、脳が麻痺するような甘い味がした。


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