ホワイト・ターン・オレンジ〜夕日色の白い部屋で幼なじみと甘いひととき〜
 名前を呼んでみたけれど、やっぱり返事はない。


 結局ポン、と通知の音が鳴るまでずっとそのままの状態だった。

 音が鳴って、「新、通知が……」とわたしが声を掛けると、新は深く息を吐いてから離れてくれた。

 でも、今まで熱いほどだった新の体温が離れてしまって、何だか寂しさを覚える。

 もっと抱き合っていたかったって、欲が沸き上がる。

 新も同じ気持ちでいてくれるのか、その表情は名残惜し気なもの。

 まだ足りない、と言っている様に見えるのは、わたしの願望なんだろうか?


 だとしてもいつまでもこのままでいることも出来なくて……。

「スマホ、貸して。録音しときたい」
「……うん」

 ベッドから下りたわたしは、頷くことしかできず新にスマホを貸した。

 離れて待ちながら、なんとも言えない気分になる。


 ドアを開けて、保健室と廊下の境界線を越えれば新はまた今の出来事を忘れてしまう。

 ううん、なかったことになるんだ。

 残っているのはわたしの記憶の中にだけ。

 でも記憶だけだと忘れてしまう。
 たとえ覚えていても、ずっと同じ状態では残っていてくれない。

 だからこそ寂しくて、哀しい。

 だからこそ、名残惜しくて仕方がない。


 そんなことばかり考えているうちに、新は録音を終えてわたしの所にスマホを返しに来た。

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