ホワイト・ターン・オレンジ〜夕日色の白い部屋で幼なじみと甘いひととき〜
 そんなに強い力じゃなかったけれど、軽くよろめいたわたしはそのまま後ろに数歩下がって……。


 境界線を越えた。


「新⁉」

 手を伸ばすけれど、新には届かなくて……少し悲しそうな笑みを浮かべた彼の姿が、霞で隠れてしまう。

 そんな顔をしないで。

 あなたも――“今”の新も、わたしの大好きな新なんだから。


 ……でも、それを伝えることなく視界が切り替わる。

 目の前には保健室のドア。

 わたしの両手には二つの鞄。

 静かな廊下。


「……」

 さっきまで目の前にいた、悲しそうな笑みの新もわたしの記憶の中だけの新になってしまった……。

 どうしようもないことだけれど、言葉じゃ表現しきれない感情が胸の内に渦巻いて……。

 わたしはしばらく、目の前のドアを開けることが出来なかった。
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