可憐な花は黒魔導士に二度恋をする
「他にいるだろう、もっと重要人物が」
 
 あら、そんなヒントではなくてはっきり誰だったのか教えてくれたっていいのに!
 
 ほかに自宅療養中にお見舞いしてくれた男性はというと…。
 ―――!
「もしかしてフレッド!?」

 フレッドが来たのは一度きりだったが、目を潤ませながらやはりわたしに「申し訳ありませんでした」と謝罪を繰り返し「元気になったらまたクッキーを食べさせてくださいね」とも言っていた。

 顔つきはまだあどけなさが残る少年のようで、後から父に彼の年齢を尋ねると18歳だと聞いた。
 ハインツ先生と同じく魔法の才能を認められて14歳から働いているらしい。
 
 18といえば今のわたしと同い年ではあるが、22歳だった時のわたしからは4つ年下ということになる。
 わたしったら、才能ある若い男の子をクッキーで餌付けするお姉様だったってこと?
 
「わたしいつの間にか年下好きになっていたんですね!前途洋々な若者ですから、そりゃ魔物憑きなんてフラれちゃいますよねえ」

 若い男の子との恋愛の記憶を失ってしまったことを心底残念に思いつつしみじみ言うわたしの目の前でハインツ先生が頭を抱えている。
「それも違う。どうしてそうなるんだ!」

 そこで午後の講義開始を告げる予鈴が鳴ったため、結局わたしがどこで誰と暮らしていたのかわからないままになったのだった。

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