可憐な花は黒魔導士に二度恋をする
 シャドウはもともと子猫だった。

 生まれて間もなく母猫から引き離され、人間の手によって虐待を受け続け、あっけなく散った命だった。
 はじめて目で捉えたのは、自分のことを歪んだ残酷な笑顔で水に沈める人間の姿だった。

 苦しい…。
 辛い…。
 悲しい…。

 ボロボロになった名もなき子猫の骸から小さな怨念が生まれた。
 最初は小さな黒いシミのようだったそれは、様々な生き物の体内に寄生して負の感情を取り込みながら成長し続けた。

 そうしているうちに、人間の負の感情が実に美味で際限がないことに気づいた。
 しかも悪意を増幅させている人間は、簡単にとり憑いて操れることにも気づいたのだ。
 
 標的を人間に絞ってとり憑くようになり、その者を操ってトラブルを起こすことで周囲にさらなる負の感情を発生させた。
 妬み、憎しみ、蔑み、裏切り、底なしの欲望、強烈な殺意…人間の負の感情は何とも甘美で、それを餌にしてより漆黒の闇に染まりながらシャドウは力をつけていったのだ。
 
 
 そんな夢を見た。
 真夜中に目を覚ましたわたしは、シャドウの生い立ちを知って涙を流して嗚咽した。
 
 シャドウは、愛情を与えられることも与えることも知らないまま闇に染まっていった存在だったのだ。
 だったら自分の中にこの子がいるうちは、少しでも愛情深く楽しく過ごそうと決意を新たにしたのだった。

 
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