可憐な花は黒魔導士に二度恋をする
 何となく寝付けなかったある夜、わたしは勉強机の引き出しを開けて何か面白い物でも入っていないかと探っていた。
 22歳のわたしがどこで暮らしていたのか手掛かりになる物が入っていないかと思ったのもある。

 父やハインツ先生が、わたしがそれを知った時に混乱したりショックを受けないようにという配慮で内緒にしてくれているのだということは理解できる。
 でも、自分のことなのに知らないままというのが何とも気持ち悪いということもわかっていただきたい。
 
 ペンやメモ帳が雑多に入っている引き出しの一番奥に、隠すようにしまってある手帳を見つけた。
 

 中を開いてみると、そこには確かにわたしが書いたと思われる文字で、日付とともに何かが記入されている。
 その内容をよく読んで目を見張ってしまった。

 日付を逆算すると、本当に18歳だった頃のわたしが足しげく魔導士棟に通いながら記録したもののようだ。
 
『〇月△日 ハインツ様と女性が手を握って見つめ合っていた』
『〇月×日 ハインツ様が女性のことを可愛すぎると言って笑っていた』

 なにこれ!?

 当時のわたしは、ハインツ先生のことをこっそり観察して、それを事細かに記録していたようだ。

 それって、ストーカーってやつなんじゃないの!?


 当時のハインツ先生は独身だったはずで、この記録にある女性と逢引していたとしても何ら問題はない。
 この「女性」に関する記述は「赤縁のローブ」という情報のみだが、ハインツ先生は職場内恋愛を経てこの人と結婚したということなのかもしれない。

 わたしは何故、ハインツ先生の動向を探ってこんな記録をつけていたんだろうか。

 もしかするとこの頃のわたしは、今と同じくハインツ先生のことが好きだったのかもしれない。
 それで就職先も同じ第2師団を希望したってことなのかしら。

 叶わぬ恋をしていて、せめてそばに居たいと思っていたってこと!?
 
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