可憐な花は黒魔導士に二度恋をする
 じりじりと迫られてついに壁際まで追いやられ、両手を壁についたハインツ先生に囲われてしまった。

「もしも…シャドウの()(しろ)のことで不安があるなら最大限善処する」

 え、何の話ですか?
 いかにも乙女心が分からなさそうな野暮天のハインツ先生は勝手に勘違いしてくれたようだ。

 ()(しろ)の話が出て来たのは、先日ハインツ先生が麗しい黒猫に変身した後のことだった。
 
 あの時ハインツ先生は、自分が黒猫に変身するからこっちに憑くといいと言ったのだ。
 そんなことが可能なのかと尋ねると、おそらく可能だという答えが返って来た。

 もともと人から人へ、悪意や憎悪がより強い者のところへ乗り移りながら成長し続けた魔物なのだからシャドウがその気にさえなれば、わたしの体から出てよその依り代へ行くはずだ、と。

 もしもあの時、シャドウがハインツ先生の口車に乗せられて移動していたら、彼は自分の体内で上手くシャドウを封印したり抹殺したりできたのではないだろうか。
 元々シャドウを抹殺することが目的だったのだから、してやったりだろう。

 そのことに気づいたわたしはあの後ハインツ先生に猛抗議した。
 シャドウに対してだまし討ちをするような真似は決してしないでもらいたいと言い切った。
 
 だまされたと気づいたシャドウがまた闇を増幅させて暴走したらどうなるか、想像するだけでいたたまれなくなる。
 ハインツ先生は少し困ったような顔で首を傾げただけで、その件について否定も肯定もしなかった。


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