可憐な花は黒魔導士に二度恋をする
 日没とともにほのかな灯りのランタンが照らされて、群青色の夜空にピンクがかった満月が浮かび上がった。
 まだ低い位置にあるそのストロベリームーンを、ハインツ先生と並んでいつもの中庭のベンチに腰かけながら眺める。
 もちろん我が研究室の看板猫、ライトも一緒だ。

 ランタンの灯りとの角度を考えて足を少し伸ばし影を作っているため、シャドウも猫型の影を作ってライトに寄り添っている。

 先に露店を回って買って来たものを詰め込んだバスケットから棒に刺さったバナナを取り出す。
「はい、これチョコバナナです」
 チョコレートでコーティングしてあるバナナだ。
 ハインツ先生は「ん」と言っておとなしく受け取り一口かじった。
 
「――! 美味いな」
「でしょう?お祭りといえばチョコバナナです」

 気に入ってくれた様子に満足してわたしも自分のチョコバナナを頬張った。
 足元のライトは、味付けせずに揚げてほしいとお願いしたフライドチキンを食べている。

「次にイカ焼き。これもお祭りには欠かせません」
 
 差し出したイカ焼きも素直に受け取ってかじりつくハインツ先生だ。
「香ばしくて美味いな」
 どうやらイカ焼きも気に入ってくれたらしい。
 
「はい、ソーダ水ですよ。イカ焼きによく合うんです」
 蓋を開けてると泡がシュワっと発生した。
 瓶を手渡すと、ハインツ先生はすぐに口はつけずに中の青い液体を眺めている。
 
「なんだか体に悪そうな色をしているな」
「何をおっしゃいます! この色こそがお祭りの楽しい雰囲気を醸し出していていいんですよ」

 ふんすと胸を張ると、そんなものかとつぶやいて口に含み、こくんと上下する喉ぼとけを見守った。
 
「うん、きみの言う通りだな」
 こくこく頷きながらイカ焼きとソーダ水を交互に口に含むハインツ先生の様子にほっと胸をなでおろしたのだった。
 
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