可憐な花は黒魔導士に二度恋をする
「虹色でお願いします!」
「うんと明るく!」
「お花の形にできませんか?」

 いや、ちょっと待て。
 みんな相手がハインツ先生だからって、随分な無茶ぶりしてませんか?
 しかも自分でオーブを作れるはずの最上級生たちまで並んでるし!

 焦るわたしをよそに、ハインツ先生はリクエスト通りのオーブを難なく作り出して次から次へと渡している。
 オーブを作ることぐらい呼吸するのと同じだとでもいう雰囲気で、魔力切れの心配も全くなさそうだ。
 
 普段からハインツ先生は生徒たちに大人気だ。
 もしもこんなに才能あふれる、しかも見た目も麗しい上級生が在籍していたらさぞやモテモテだったに違いない。
 一緒にオーブを飛ばしたいと言い寄る女子生徒も後を絶たなかっただろう。

 そんなことを思いながら、楽し気にオーブを作るハインツ先生の後ろ姿を見守ったのだった。
 
 
 最後の一人にオーブを渡したところでちょうど時間となった。
 様々なオーブを手に、広場に生徒たちが集まってくる。
 
 わたしはまず淡いピンク色の小さなオーブをふたつ作ってライトの左右の耳に乗せた。
「これはライトとシャドウの分ね」

 そしてもうひとつ。
 自分用に作ったオーブは深紫。
 ハインツ先生を思って丁寧に紡いだオーブは自然と彼の瞳の色になった。

 それを見たハインツ先生が口角を上げて穏やかに微笑む。
 彼の手のひらに現れたオーブは綺麗な琥珀色だった。

 わたしの瞳の色だと己惚れてもいいだろうか。

 わあっ! と歓声があがる中、オーブが一斉に満月へ向かって飛んで行く。
 
 どうかシャドウが闇に染まりませんように。
 ハインツ先生がたくさん笑ってくれますように。

 そう願いながらオーブを空へと放った。

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