可憐な花は黒魔導士に二度恋をする
 シャドウがわたしの体から離れたことで、早送りのように4年分の記憶が蘇って来た。

 養成学校を卒業する前にハインツと婚約したこと。
 ハインツの浮気を疑い、素行調査をしていたこと。
 刺繍のモチーフはわたしの名前にちなんだ花であること。
 卒業と同時に結婚し、第2師団で団員たちに「若旦那と若女将」とからかわれながら夫婦で一緒に仕事をしていたこと。
 魔物の封印に最後まで反対し「浄化が無理でも更生させる余地があるはずだ」と主張していたこと。
 あの日、鎖から逃れようとする魔物に咄嗟に飛びついたこと――。
 
 22歳に戻ったわたしの癒し魔法の作用が上がった。
「大丈夫よ、シャドウ。あなたはもう一人じゃないから。これからもずっとわたしたちと一緒よ。ライトも待ってるわ。ね、ハインツ、そうでしょう?」

「ああ、その通りだ」
 耳元で響く最愛の夫の声に励まされながら、わたしはさらに癒し魔法を流し続けた。

 魔力が尽きる寸前、周囲が一瞬キラキラとまばゆい光に包まれた後、暗くなった。
 体中にびっしりと汗をかいているのがわかる。

 ハッと気づいて腕の中にいるシャドウを見下ろすと、怪我がすっかり癒えた茶色い猫が穏やかな表情ですやすやと眠っていた。

「上手くいったの?」
「そうみたいだな。よくやった」

 ホッとして息を吐いた途端ぐらりと揺れてしまった体をハインツが後ろからしっかり支えてくれた。

 頭を撫でられて、ひどく優しい声が耳元で響く。
「おかえり、リナリィ」

 
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