可憐な花は黒魔導士に二度恋をする
 わたしの体内から聞こえる声が魔物のものであると父から聞かされたのは、その翌日のことだった。

 魔物にとり憑かれるという現象は非常に稀で、今後どうなるかわからないらしい。
「もしも人格を乗っ取られるようなことがあれば、その時は…」
 父はそれ以上は言わなかったが、想像はつく。

 厄介なことになってしまったと思った。
 でも、時間が巻き戻って幼い子供のようになっている魔物の育て方を間違わなければ、善良とはいかないまでも凶悪に振り切れることのない「普通」の魔物に育つのではなだろうか。

 父を励ますつもりでそんな能天気なことを言ってみたら、父の隣にいたハインツが口を開いた。
「きみは、あの時と同じことを言うんだな」

 寡黙で不愛想。
 そんな印象しかなかったハインツが泣きそうな顔で笑っている。

 この人、こんな表情もするんだ――そう思ったことは内緒だ。

 
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