可憐な花は黒魔導士に二度恋をする
 そもそもリナリアは、それまで自分はハインツに嫌われていると思っていたのだ。

 師団長であるリナリアの父は魔導士棟に寝泊まりすることも多く、リナリアも何度か着替えや差し入れを届けたことがあるのだが、若い団員たちが気さくに挨拶してくれるのとは対照的に、ハインツは彼女に冷たい一瞥をくれてすぐに目を逸らすような態度だった。

 その度にリナリアは「お仕事の邪魔をして申し訳ありませんでした。失礼します」と縮こまりながら謝罪して逃げるように魔導士棟を後にしていたのだから、どこでどう彼に見初められたのかさっぱりわからない。

 婚約の手続きのためにローレンス家を訪れたハインツは魔導士のローブに身を包み、所作は洗練された品のあるものではあったけれど、リナリアに微笑みかけることさえしなかった。
 父は「ハインツは実はシャイな男なんだ。許してやってくれ」と笑っていたけれど、ハインツに対する母や兄の心証は悪化したし、リナリア自身もますます訳が分からなくなっていた。

 ハインツ様がわたしのことを慕ってくださっている様子はないし、だとすると、一体何が目的なの?

 魔導士部隊は実力主義であるため、師団長の義理の息子であろうが忖度は一切ないし、ハインツの実力をもってすればそもそも忖度など不要だ。
 出世欲でないのなら、婚約者(わたし)を「虫よけ」にしようとしているのかもしれないと思い至ったリナリアだった。
 
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