原田くんの赤信号
 原田くんは変な人だ。
 どこが変なのかと聞かれたら、わたしはこう答えるだろう。
「馬鹿なのか天才なのかわからないところ」だと。


「な、なんで……」

 翌日。

「なんで、なんでなの……」

 ジャジャーン!と原田くんがわたしに見せつけてきたのは、まさかの百点満点の回答用紙。その場で採点された小テストは、すぐに手元へ戻された。

 ぱちくりぱちくり。
 わたしの目は、瞬きが止まらない。

「べ、勉強したの!?」

 100の数字を何度も疑うように見て、そう聞けば、原田くんの首が横に振られた。

「いいや、そんなのしてない。あの後、潤たちと遊んだし」
「じゃ、じゃあ冬休み中に猛勉強してたとかっ!?」
「しねえよ。俺、勉強嫌いだもーん」

 一体なぜ、どうしてだ。どうやったらつい数ヶ月前最下位の赤点を取っていた人間が、百点を取ることができるのだ。

 わたしは自分の答案用紙を咄嗟に隠す。

「ちょっと瑠美。俺のも見せたんだから、そっちのも見せてよ」
「はあ!?やだよっ!」
「昨日勉強してたんだろ?」
「そ、そうだけどダメっ!」

 ニヤける原田くんをしっしと手ではらうと、わたしは『53』と書かれた答案用紙に目を落とす。

 昨日勉強した箇所は、全て出なかった。完全に予想が外れた。去年の復習なんてひとことに言っても、範囲が広すぎやしないか?こんなもの、事前に先生が作成した問題用紙でも見ないことには……

「あれ、瑠美五十点いってるじゃん」

 ふとそんな声が降ってきて、慌てて用紙を机に伏せる。

「ふ、福井くんっ」

 そこには自身の答案用紙を片手に、わたしを見下ろす福井くんがいた。
 ぴゃーっと吹いていくのは汗。下手な笑顔を貼り付ける。

「き、昨日勉強したんだけど、全然ダメだったやあ、アハハ……」

 福井くんはそんなわたしにふっと微笑むと「すごいじゃん」だなんて言葉をくれた。

「瑠美、前回のテストで間違えた単語、ちゃんと書けてる。点数も前より上がったじゃん」
「え。あー……そう、だけど」

 福井くんと席が近くになることが多かった一学期や二学期は、テストを返される度によく、見せ合っていた。
 わたしとの些細な思い出を覚えていてくれた福井くんに、心は踊る。

「福井くんは、何点だったの?」

 ガタンと椅子から立ち上がったわたしは、彼の答案用紙を覗き込んだ。

「俺?俺は九十八点」
「うげ」
「単純なスペルミスったわー。悔しい」

 こんな範囲の広い復習テスト、事前に問題用紙でも見ないことには高得点など取れないと思っていたけれど、どうやら違うらしい。

「すごいね、アハハハ……」

 わたしはビターにはにかんだ。
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