原田くんの赤信号
 高校に入学してから初めての大型連休、ゴールデンウィーク明け。
 うちのクラスは「花の一年三組」とまわりから言われ、羨まれるほど、すぐに男女かかわらずのみんなが仲良くなった。

「みんな久しぶり〜!!家族でハワイ行ったから、お土産買ってきたよ〜!」

 クラス一番の活発な女子が、こんがり焼けた肌と共に南国のキーホルダーを配り始めると、教室のそこら中から「俺も!」「わたしも!」との声が聞こえ、休み時間がお菓子のパーティータイムのようになった。

 手ぶらなわたしは、美希ちゃんの側に行って小声で聞く。

「ねえねえ美希ちゃん。美希ちゃんはゴールデンウィーク、どっかに行った?」

 美希ちゃんは、「ううん」と首を横に振っていた。

「今年はどこにも行かなかったんだよねー。瑠美は?」
「そっか。わたしはね、家族で温泉旅行に行ったんだけど、三組のみんなに渡すお土産なんて頭になくて、なにも買ってないや……」
「え、まじ?」
「う、うん」
「それ、クラスのみんなには死ぬまで内緒にしてたほーがいいかもね」

 アハハハ、と苦笑いで返し、お土産を貰うことも申し訳なくなったわたしは、教室の隅の壁に背を預けた。
 わたしと同じく手ぶらな美希ちゃんも、隣で同じ所作。

 そんな()ぢんまりしたわたしたちの手のひらにも、優しいクラスメイトたちが次々にお土産を置いて行ってくれて、カラフルな飴玉や鳥の形をしたクッキー、おせんべいなどで埋まっていく。

「瑠美たちー」

 もうどれが誰のくれたお土産かわからなくなった時、ふと横から声がして振り向くと。

「福井くん」

 そこには水色の菓子箱を手にした、福井くんが立っていた。

 青が似合う。超爽やか。

「はいこれ。俺の土産」
「福井くんは、どこに行ったの?」
「富士山だよ」
「うわ、いいな。登ったの?」
「途中までだけどね」

 富士山をかたどったクッキーの賞味期限は、今年いっぱい。わたしはそのクッキーを、年越し寸前まで食べられなかった。
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