原田くんの赤信号
 二学期が始まった秋口。この頃から原田くんは、変な人となった。

 ある日、真っ赤に腫らした双眸で登校した原田くんは、男女問わずのクラスみんなに心配されていた。

「しょ、翔平……お前、どうしたんだよその目」

 友人のひとりは、項垂れる原田くんの肩に両手を置いて聞いた。

「まるでウサギの目だぞ。どうした、なにか辛いことでもあったのか?」
「べつにぃー……」

 明らかに元気のない原田くんにかける言葉も見つけられずに、わたしはただ遠くの席から彼を眺めるだけ。

 他のひとりは、そんな原田くんに近寄り言った。

「翔平、らしくないぞお前が泣くなんて。あ、それ泣いたんじゃなくて、どっかにぶつけただけだろ?電柱に顔面から派手にいったとか」

 ギャハハと笑い飛ばすこともなく着席する原田くんに、その友人はおどけていた顔を元に戻し、「しょーへーってばあああ」と眉毛を曲げていた。

 親に怒鳴られて涙する年齢でもないし、転んで泣きわめく歳でもない。何かよっぽど、辛いことでもあったのだろうか。

「原田、元気出してよ」
「翔平くん、なにかわたしにできることがあれば言ってね」
「翔平、大丈夫か?」

 みんなが原田くんの席を囲むのに、わたしがどうしてもその場に行けずにいたのは、上手な励まし方が思いつかなかったから。
 人を励ますことに、上手いや下手は関係ないと知っているけれど、クラスの友だちが原田くんに寄り添っている中、そこへ飛び込んでいく勇気もなかった。

 腿の上、ぎゅっと摘んだ自分のスカート。
 わたしはわたしを、情けないと思った。
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