原田くんの赤信号
わたしがずっと無言なのは、原田くんがわたしのタイミングで帰らせてくれなかったから。
でも、彼が無言の意味はなんなのだろう。
そろりと横目で原田くんを見る。真面目な横顔。思い詰めているようにも見える。
今なら不意をついて逃げられるかな、なんて少しだけ思った。
「なあ、瑠美」
雨の音しかしない寂しい空気に耐えきれなくなったのか、呟くようにわたしの名を口にしたのは原田くん。
「二月十四日、瑠美を家まで迎えに行っていい?」
ああ。また、その話。
わたしは半分呆れ顔。
「わたしの家、知ってるの?」
「ううん。俺と同じ駅ってことしか知らないから、詳しく教えて」
「福井くんの家は、絶対わたしに教えてくれないのに?」
「うん。瑠美の家ってどこ」
本当、変な人だよ。
二週間半後に迫ったバレンタインデーの計画が思うように進まないのは、あなたのせいなのに。
「教えるわけないじゃん」
わたしは、原田くんの顔も見ずに答えた。
「教えたら、わたしの家に来るんでしょ」
「うん」
「じゃあ教えない。原田くんが来るなら絶対に教えない」
「ええっ」
「だっていやだもん、原田くんが家に来るなんて」
冷たい言い方だな。そう思ったけれど、この話を回避するには他の手段がない。
「そう……」
消えてしまいそうな、原田くんの声。
降りしきる雨粒だけを見つめ、ぶっきらぼうな態度をとっていると、隣からは髪を掻きむしる音が聞こえた。
「わかった、じゃあ俺は行かない。潤とかに行かせる」
変な人が、またもや変なことを言い出して、途端に変わる場の空気。
「や、やだよっ。なんで潤くんが来るのっ」
「だって瑠美は、俺じゃいやなんだろう?」
「俺っていうか、潤くんでもやだよっ」
そう強く言い放っておいて、潤くんに申し訳なくなる。
「もー!」と変な人はまた、髪をむしった。
「なんなの?男がいやなの?じゃあ美希だったらいい!?」
「はい?美希ちゃんと遊ぶ日は自分で決めるよ、原田くんが決めることじゃないっ」
「じゃあ誰か、先輩!」
「来るわけないでしょっ」
「俺の中学の部活の顧問!」
「いやだよ気まずいっ」
「じゃあうちのオカン!」
「お、オカン!?」
変な人は、とうとう頭が狂ったらしい。
驚愕したわたしが言葉を失っていると、原田くんはそれを承諾とみなしたのか「じゃあオカンにしよう」と言ってきた。
「いやいや、原田くんのオカン来られても困るから……」
「俺のオカン、良い人だよ」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「瑠美のオカンは何歳?」
「五十、くらい?」
「へえ!うちのオカンも!」
「いやいやオカンの話になってますけど……」
わたしは本題に戻す。
でも、彼が無言の意味はなんなのだろう。
そろりと横目で原田くんを見る。真面目な横顔。思い詰めているようにも見える。
今なら不意をついて逃げられるかな、なんて少しだけ思った。
「なあ、瑠美」
雨の音しかしない寂しい空気に耐えきれなくなったのか、呟くようにわたしの名を口にしたのは原田くん。
「二月十四日、瑠美を家まで迎えに行っていい?」
ああ。また、その話。
わたしは半分呆れ顔。
「わたしの家、知ってるの?」
「ううん。俺と同じ駅ってことしか知らないから、詳しく教えて」
「福井くんの家は、絶対わたしに教えてくれないのに?」
「うん。瑠美の家ってどこ」
本当、変な人だよ。
二週間半後に迫ったバレンタインデーの計画が思うように進まないのは、あなたのせいなのに。
「教えるわけないじゃん」
わたしは、原田くんの顔も見ずに答えた。
「教えたら、わたしの家に来るんでしょ」
「うん」
「じゃあ教えない。原田くんが来るなら絶対に教えない」
「ええっ」
「だっていやだもん、原田くんが家に来るなんて」
冷たい言い方だな。そう思ったけれど、この話を回避するには他の手段がない。
「そう……」
消えてしまいそうな、原田くんの声。
降りしきる雨粒だけを見つめ、ぶっきらぼうな態度をとっていると、隣からは髪を掻きむしる音が聞こえた。
「わかった、じゃあ俺は行かない。潤とかに行かせる」
変な人が、またもや変なことを言い出して、途端に変わる場の空気。
「や、やだよっ。なんで潤くんが来るのっ」
「だって瑠美は、俺じゃいやなんだろう?」
「俺っていうか、潤くんでもやだよっ」
そう強く言い放っておいて、潤くんに申し訳なくなる。
「もー!」と変な人はまた、髪をむしった。
「なんなの?男がいやなの?じゃあ美希だったらいい!?」
「はい?美希ちゃんと遊ぶ日は自分で決めるよ、原田くんが決めることじゃないっ」
「じゃあ誰か、先輩!」
「来るわけないでしょっ」
「俺の中学の部活の顧問!」
「いやだよ気まずいっ」
「じゃあうちのオカン!」
「お、オカン!?」
変な人は、とうとう頭が狂ったらしい。
驚愕したわたしが言葉を失っていると、原田くんはそれを承諾とみなしたのか「じゃあオカンにしよう」と言ってきた。
「いやいや、原田くんのオカン来られても困るから……」
「俺のオカン、良い人だよ」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「瑠美のオカンは何歳?」
「五十、くらい?」
「へえ!うちのオカンも!」
「いやいやオカンの話になってますけど……」
わたしは本題に戻す。