原田くんの赤信号
 甘めのチョコか、苦めのチョコか。福井くんの好みを知りたいけれど、こればかりはさすがに聞けやしない。冬にするそんな質問は、バレンタインデーを匂わせる。

 直接チョコレートを渡す覚悟はできたのに、その日まではこの気持ちを隠しておきたい。
 ああ、難し恋する乙女心。


 翌日。通学路で福井くんの姿を発見した。彼の隣には原田くんもいたが、一刻も早く確かめたいからわたしは駆け寄った。

「福井くんって、ひとりっ子だよね!?妹なんかいないよね!?」

 おはようの挨拶もせず、突として投げた質問に、どうしてだか原田くんの顔が歪む。
 きょとんとした福井くんは言う。

「ひとりっ子?俺いるよ、妹」
「え!」

 思いもよらぬ返答に、後ずさる私。

「な、なんで……」
「どうして?瑠美」
「福井君こそどうして……」

 なんで、どうして福井くんに妹が。それじゃああなたの家は二階ということ?いや、でも待てよ、昨日の彼女が福井くんの妹であるという保証はどこにもない。いや、でも今思い出してみれば、どこか顔の作りが似ていたような気がしないでもない。

「おーい、瑠美?」

 ぐるぐると頭をフル回転させるが、わたしは迷路に迷うだけ。しかし次の瞬間、わたしは自分の発したひとことで、見事、この迷路の出口を発見することに。

「ふ、福井くんに中学生の妹がいるなんて、知らなかったよ!」

 突然出した大声に、斜向かいの原田くんの視線が強くなった、気がした。

 ハハッと笑う福井くんは、軽く握った拳を口元にあてる。

「俺の妹、まだ小学二年生だよ?中学生ってなに?」
「え……小学生?」
「そう、ちっちゃくて可愛いよ」

 福井くんの妹は小学生。昨日の彼女は彼の妹ではない。
 再度差し込んだ光に、わたしは心でガッツポーズをして、とりあえずはこの場をおさめることにした。
< 32 / 102 >

この作品をシェア

pagetop