原田くんの赤信号
 春の入学式以来、久しぶりに通す長袖に、オシャレな女子たちが足早にニットまで着出した頃。

「瑠美って、どうして福井のことが好きなの?」

 美希ちゃんしか知らない情報を、原田くんはさらっと言ってきた。一応、人通りのない廊下でだったけれど。

「なななな、なんで知ってるの!」
「どこが好きなの?他の奴でもよくない?」

 真剣な眼差しを寄越してくる原田くんに、この時のわたしは少し自惚れた。

「もしかして原田くん……わ、わたしのこと……」
「ん?」
「もしかして、好──」
「あ。そーいうんじゃないから」

 きっぱりと否定され、相当恥ずかしかった。
 ならば放っておいてくれよと少し不快になり、わたしは原田くんに意地悪をしたくなった。

「原田くんと真逆なところが好きかなっ」
「はー?真逆?」

 頭を落としそうなほど首を傾けた原田くんに、わたしは続ける。

「福井くんって背は高いし、目も切れ長でシュッとしてるし、頭は良いし」
「なに、それって……俺の背は低くて目は丸っこくて、頭が悪いって言ってんの?」
「あ!そういえば性格も真逆だね。福井くんはクールで、原田くんはめちゃくちゃやんちゃっ」

 クスクスと笑うわたしを前に、原田くんも多少苛立ったのか、「中身を見て好きになれ」と上目線で言ってきた。

 べえっとわたしは、小さく舌を出す。

 そして次の日も、その次の日も。この日以来原田くんは立て続けに、福井くんの名前を口にしてくるようになった。一応、その名前を口にする場所を選んでいるのか、人気(ひとけ)のない東側の階段が多かったけれど。
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