原田くんの赤信号
「そしたらわたしは、福井くんのお嫁さんだねっ」

 ふにゃっとした顔でそう言うと、原田くんは頬杖をつき「あっそ」と冷たい態度をとってくる。

 原田くんは気分屋らしい。早いところドーナツを食べ切って、家路につこう。

 再びわたしが噛むスピードを上げていると、頬杖をついたままの原田くんが呟いた。

「そりゃあもう、運命ってやつだなあ……」

 まだこの話は続くのか。

「二月十四日に俺がいくら瑠美を誘っても、何度も福井のとこ行くなって言っても、無駄なわけか……」

 どこを見ているのかわからない、原田くんの遠い目。その視線の先には一体、何が映っているのだろう。

「そっか。そっかそっか。そうなのか」

 よくわからないが、ようやく納得したらしい。
 うんうんとひとり頷いて、小さな「そっか」と「そうだよな」を繰り返す原田くん。
 回想しているようにも、未来を想像しているようにも見えた原田くんの様子。
 わたしはその間、ドーナツだけに集中した。

「じゃあもう、無理じゃんかっ……」

 悔しそうなその声にも、わたしは何も反応しなかった。
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