原田くんの赤信号
 その日から、原田くんとはひとことも喋らなくなった。
 次の日も、その次の日も。同じ一年三組に居ようが廊下ですれ違おうが、原田くんがわたしに話しかけてくることはなくなった。
 こんなこと、原田くんを変な人だと思った日から初めてだった。


 二月十二日、金曜日。
 浮かない気持ちは続いてる。
 今日で原田くんと会話をしなくなってからもう、五日が経つ。

「福井の家に行くなよ」も「俺と遊ぼうよ」も、言ってこない。
 変な絡みもしてこなければ、人通りの少ない東階段に呼び出されることもなくなった。

 原田くんは、普通の人に戻ったのだ。変なことをしない、言わない、普通の人間に。
 これは、わたしが心から望んでいたことだ。なぜならば原田くんが変になってからというもの、毎日困り果てていたのだから。

 遠い日にちを突然指定し、「遊ぼう」と誘ってきたり。
 嫌だと言えばオカンを寄越そうとしてきたり。
 キスしようとしたり。
 無理やり手を繋いできたり。
 抱きしめてきたり。

 本当、参っていたんだ。

 赤いウサギのような目をふたつ顔に付けてきた日にはけっこう心配したのに、いきなり微笑むし。
 大雨の日だって早いとこ帰りたかったのに、イチかバチかのあてずっぽで帰してはくれなかったし。
 まあ、これは原田くんの予想が的中したから、責めるに責められないんだけどさ。

「朝イチから会いたい」とか。
「俺のこと好きになってよ」とか。
「付き合おう」とか。

 原田くんの言葉に不覚にもときめかされたりして、一瞬でもドキッとしてしまったのは悔しく思っている。

 ねえ原田くん。わたしのあのときめき返してよ。

 あなたはわたしを好きじゃない。あなたはわたしなんかを想っていない。

 本当、悔し過ぎるんだ。最近のわたしは、あなたのことが頭から離れないっていうのにさ。
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