原田くんの赤信号
「ほら、ね?原田くんって変でしょ?」

 甘いメロンパンとスパイシーなカレーパンが、わたしと美希ちゃんの胃袋に消えると同時に、わたしの思い出話もそこで終わった。

 美希ちゃんは「ほんとだねえ」と笑っていた。

福井斗真(ふくいとうま)と原田翔平って、仲悪かったっけ?」
「ううん、そんなことない。結構喋る方だと思うよ」
「そうだよね、どっちかって言うと仲良い方だよね」
「うん」
「それなのに、福井斗真は原田翔平のお薦めの中には入ってないんだ」

 どうしてだろう、と言い、美希ちゃんは澄んだ空を見上げた。そこにかかる彼女の白い息。
 当たり前だけれど、一月は寒い。

「それはだから、『変な人』だから、なんだってば」

 わたしも美希ちゃんを真似るようにして空を見上げ、一文字ずつ白い息を吐いた。

「変、かあ。それだけが理由なのかなあ」
「原田くんは変わり者なんだよ。ただそれだけ。だってそれ以外の理由なんか、思いつかないもん」

 原田くんは変な人だ。

 原田くんはわたしを好きではないし、福井くんとは仲が良い。それなのに、大したわけもなくわたしの恋の邪魔をする。
 おそらくバレンタインデーだって、わたしが福井くんにチョコレートを渡すことを想定して、誘ってきたんだ。
 お薦めではない福井くんへ、チョコレートを渡して欲しくないから。

 ああ、全くもって、原田くんの行動の意味がわからない。

 小学校よりも中学校よりも、ぐんと増えた高校の生徒数。
 人数が多ければ多いほど、自分とは全く違う考え方の持ち主と接する機会も増すだろう。

 だからそう、原田くんを理解しようと思っても無理なんだ。

 わたしからすれば原田くんが変。原田くんからすれば、わたしが変なのかもしれないのだから。
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