原田くんの赤信号
 美希ちゃんと公園で別れた後、わたしは家まで遠まわりの道を行く。
 晴れ渡る空の下、寒いけれどなんとなく散歩したくなったからという理由で。

 真上の青と頭の中に、大好きな人を描く。

 福井くんは、甘めのチョコレートと苦めのチョコレート、どちらの方が好きだろうか。彼のペンケースやノートは青色の物が多いから、ひょっとすると青好きなのかもしれない。そうだ、それならばラッピングは、ブルーの物をメインで使おう。

 まだまだ遠いバレンタインデーのことをこんなにも考えてしまうのは、今日の原田くんのせいだ。


「あ」
「あ」

 頭の中のカッコいい福井くんは、散歩終わりに立ち寄ったコンビニで、ばったり会ってしまった原田くんによってたちまち消滅した。

「瑠美じゃん、なにやってんの」

 赤いコート姿の原田くん。濃くもなく薄くもなく、これぞ赤という、信号のような赤色のコート。

「み、美希ちゃんとちょっと喋ってただけっ。っていうか原田くんこそ、なにしてんのこんなとこでっ」

 高校最寄り駅から、電車を乗り継がなければ到着しない自宅付近。繁華街でもない閑散としたこの小さな町で、高校で知り合った人間と会うのは初めてだ。

 原田くんのつま先から頭のてっぺん。訝しむように全身を見ていると、けろっと彼は言う。

「だって俺、この辺住んでんだもん。なんかアイス食べたくなったから、買いに来た」
「はあ!?この辺が地元なの!?だって小学校も中学校もわたしと違うじゃんっ」
「ああ、正確には一週間前に引っ越してきた。前々から憧れてたんだよなー、ひとり暮らしってやつに」

 にししと笑い、どこか満足そうな原田くん。そして一転、爽やかな表情を作ってこう言った。

「瑠美もよかったらアイス食わねえ?奢ってやるよ」

 原田くんは変な人。
 けれど、悪い人ではないのだ。
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