原田くんの赤信号
 呼吸はなんとか回復したと、医者が言った。しかしいまだになお、原田くんの意識は戻っていないとも言っていた。

 憔悴しきったわたしに「もう帰りなさい」とお母さんは促したが、わたしは病室に残ることを決めた。
 面会時間終了時刻までは、原田くんと一緒に過ごしていたい。
 愛する人と、共にいたい。

 渋々ひとりで帰宅したわたしのお母さんに続いて、原田くんのお父さんも一度、彼の着替えなどを自宅へ取りに、その場を後にする。
 いくつもの管が繋がれた原田くんを目の前に、病室には彼のお母さんとわたしだけが座っていた。

 起きて、原田くん。お願い。


「ごめんなさいね、さっきは冷静になれなくって」

 涙目なのにもかかわらず、原田くんのお母さんは懸命に、優しい瞳を作ってくれた。

「いえ……こちらこそ……」

 息子をこんな窮地に立たせたわたしなど、目にも入れたくないかもしれないのに。

 どよんとした空気、お葬式のような暗い雰囲気。
 けれどそれは、原田くんのお母さんが打ち砕いてくれた。

「もしかして、あなたが翔平の好きだっていう女の子?」
「え……」

 その言葉は、俯いていたわたしの顔を上げさせた。

「本当、なんですか?それ……」

 原田くんの最後の発言は、わたしの足を動かすためについ放った嘘かもしれないと、心のどこかで思っていたから。
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