原田くんの赤信号
 わたしの気持ちとは裏腹に、無情にも、夏は来た。
 寝たきりの原田くんも半袖をまとい、夏仕様になった。

 原田くんの顔を見に定期的に病室を訪れていると、気付かされることがある。
 土日はもちろんのこと、平日の昼過ぎでも夕方でも、いつだって必ず、そこには誰かがいるんだ。

 この前は、原田くんと同じ小学校に通っていたという同い年の男性に会った。
 翔平とよくふざけて先生に怒られて〜、なんて、そんな思い出話を聞かせてくれた。

 その前は、中学生の頃の部活の顧問だったという歳の離れた男性。
 原田くんがバスケットボールの経験者だということを、その時初めて知ったわたしだった。
 幼なじみの友人や、わたしが一度だって話したことのない高校の先生。
 バイト先の店長やその仲間も来ていたし、それに、親戚もたくさん原田くんの病室を訪れる。

 原田くんは、意識を失った今でも、たくさんの人たちに愛されているんだ。


「失礼しまーす……って、あれ?」

 だから今日は、入室早々、少し驚いた。

「誰もいないんだぁ」

 なぜならこの部屋には原田くんとわたし、ふたりきりだったから。
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