原田くんの赤信号
 つい先ほど美希ちゃんとふたつのパンを頬張ったベンチで、今度は原田くんと並んで座る。
 空は青から段々と色が変わり、もうすぐ茜色へと移りいく。

「いただきまーす」

 ちゃっかりと奢ってもらったアイスクリーム。わたしはメロンシャーベット。原田くんは、バニラ味にチョコチップが入ったカップアイス。

「わ、美味しい」
「うん。うまい」
「けど寒いなあ」
「おう、けっこうさみぃ」

 チチチと鳥が飛び交って、それを「あ」と指さす子供。
 原田くんがわたしにちょっかいを出してくる前には、こんな長閑な場所でのツーショットなんて、あり得なかった。

「なあ瑠美」

 ひちくちふたくちと、アイスを食べ進めた原田くんが、おもむろにわたしの名前を呼んだ。

「なあに?」
「二月十四日、俺と遊ぼうね」

 ついさっき、原田くんの絡みに対して「ちょっかい」という言葉を使ってしまったけれど、前言撤回。
 原田くんの絡みはちょっかいどころではなく、相当しつこい。

「だーかーらー、バレンタインデーの日に原田くんとは、遊ばないってば」

 またその話か、と面倒くさくなったわたしは、その気持ちをあらわにして、目線をメロンシャーベットに落としながら答えた。
 原田くんは、どうしてだか切なそうに返してくる。

「なんでだよぅ、瑠美ちゃん俺と遊ぼうよぅー」

 その言い方は少し可愛かったけれど、そう思ったことは彼には内緒。

 わたしは姿勢を正し、凛とする。

「だからね、原田くん。その日はバレンタインデー当日だし、学校あるし、わたしの予定はまだ決まってはいないけど、色々と忙しいことには間違いないの」

 けれどその凛とした態度も、原田くんの次のひとことで、途端に崩れた。
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