原田くんの赤信号
 夢をみた。
 ふたり並んでアイスを食べたあの公園で、今度は半袖の原田くんと一緒に、やっぱりアイスを頬張る夢。

「やっぱりアイスは、暑い夏にこそ食べるべき食べ物だな」

 ギラギラと輝く夏の太陽を、細くした目で見つめて、原田くんは言う。

「うん、美味いっ」

 そんな原田くんを微笑ましく思った後、わたしは言う。

「本当だね。冬にここでアイスを食べた時は、すっごく寒かったもんね」
「瑠美のそれ、棒アイスだから溶けると厄介だぞ」
「あははっ。じゃあ急いで食べないとっ」

 ふたり手に持つアイスは冬のあの日と同じもので、わたしはメロンシャーベット、原田くんはバニラにチョコチップが入ったカップアイス。

 それを熱い日差しに照らされながら食べていると、ふと手を止めた原田くんが、真っ直ぐとわたしを見た。

「なあ、瑠美」

 真剣な瞳。原田くんがこの目をわたしに向けることは、過去に何回もあった。

「なあに?」
「二月十四日、俺と朝イチから遊ぼうね」

 そのエックスデーはとうに乗り越えたというのに、原田くんはどうしてだかまだ、心配そうにしている。

 わたしはそんな原田くんを癒すような、柔らかな口調で言った。

「なに言ってるの、原田くん。わたし、死ななかったでしょ?事故にあいそうになったわたしを、原田くんが助けてくれたんじゃん」
「え、そうだっけ」
「そうだよ、そう。だからわたしは、今ここにこうしていられるんだよ。今日のわたしが原田くんと一緒にアイスを食べられるのは、原田くんのおかげなんだよ」

 ありがとう、と微笑めば、原田くんから不安の色が取れた。

「ああ、そっか。俺、瑠美を助けることにようやく成功したんだっけ」
「そうだよぉ。ありがとうね、原田くん。原田くんがわたしを救ってくれなかったら、わたしは今、生きていない」
「瑠美……本当に、よかった……」

 安堵した原田くんにわたしの心も和んでいると、彼はアイスを運ぶ手を止めた。
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