原田くんの赤信号
「なに言ってんの。今年のバレンタインデーは、日曜日だよ」
「え!そうなの!?」

 曜日は確認していなかったけれど、カレンダーはそのほとんどが平日だから、バレンタインデーも平日だろうと、漠然と思っていたわたし。
 上着のポケットからスマートフォンを取り出して、カレンダーアプリを起動させてみると、そこには確かに、赤い十四の文字があった。

「よ、よく知ってたね原田くんっ。まだ一月の頭なのに……」

 スマートフォンをポケットへ戻し、横目で原田くんを見ると、彼は「はあ?」と馬鹿にしてくる。

「曜日もわからないで、俺を断ってたのかよ。つーかバレンタインが何曜日かも知らなかったなんて、恋する乙女失格だなっ」

 その言葉に、わたしの頬はむくっと膨らんだ。

「ふ、普通知らないでしょっ。まだバレンタインまでには、たっぷり日にちがあるんだからっ。知ってる原田くんの方がおかしいんだよ」
「はいはい」
「あ、わかった。もしかして原田くん、本当はバレンタインの日、誰かと約束してるんでしょ」

 怒りのせいなのか、冷たいメロンシャーベットのせいなのか。わたしはキーンとする頭を堪えながら、まくし立てるようにして言った。

「はあ?約束なんてねえよ。あったら瑠美を誘ってないだろ」
「だって変だもん。原田くんが、好きでもないわたしに声をかけるなんて。誰かと会う前の暇つぶしとかなんじゃないの?」
「ちがうって」

 今度は原田くんの頬が膨らんだ。あなたが不貞腐れるのはおかしいでしょうと思ったわたしは、その頬を人差し指で潰してやった。

「えいっ」
「イテッ」

 ぐりぐりぐり。

 その人差し指で原田くんの頬をこねてから、わたしは真面目なトーンで言う。

「わたしさ、その日は福井くんに、チョコを渡したいんだよね」
「……知ってる」

 そりゃそうだ。原田くんは、わたしの恋の相手を知っている。

 少ししゅんとしたように見えた原田くんに、わたしは続ける。

「だからね、もし原田くんと遊ぶ予定を立てるにしても、福井くんにチョコを渡した後ならいいんだけど、ふたりきりじゃちょっと気がひけちゃうな。そんなイベントの日に原田くんとふたりでいるところを、万が一でも誰かに見られて、変な噂が立つのも嫌だし」

 これが、わたしの精一杯の妥協だった。でも原田くんの顔は曇ったまま。

「それじゃあ遅いんだよ……」
「え、遅い?」
「俺は瑠美と、朝イチから会いたい」

 直球すぎるその言葉に、わたしの息は一瞬詰まる。

 瑠美と朝イチから会いたい。

 そんなことを言われたのは、同性異性かかわらず、初めてだったから。

 えっと、えーっと。
 やっぱり原田くんって、わたしのことを……

「それ、好きって意味?」
「恋愛感情はない」

 けれど自惚れれば、またもやズバッと否定された。
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