犬猿☆ラブコンフリクト


茂木先輩が立ち去ったあと、肩を落とす由紀と一緒に教室へと戻ると、黒板に雑な字でこう書かれていた。



“教卓に課題を提出したあと各自チャイムがなるまで静かに過ごしなさい。今日はこの後なんの用事もないので、帰るなり部活に行くなり好きにして構いません”、と。



生徒の自主性を重んじる為だ、って言い張っているらしいけど放任主義にも程があるだろ、あの先生。



心の中で悪態をつきながら、課題をカバンの中から取り出す。



始業式の3日前に仕上げたから、書いてある文字がミミズ字のようにごちゃごちゃと書いてあってろくに読めたもんじゃない。



まぁ、担任はあの放任主義者だ。解読に労力を使うがいい。



そう思いながら、教卓に課題を持っていこうと歩き出す。



すると、ちょうど換気のために空いていた窓から心地よい風が吹き込んでくる。



ふわり、と私の短い髪がなびいたと思いきや、1番上に乗せていた課題のプリントがらひらりひらりと風に乗り飛ばされていき、少し離れたところへ落ちていく。


あー・・・1番上にするんじゃなかった・・・。


そんなことを思いながら、プリントを拾うために手を伸ばそうとした時、落ちたプリントは誰かの手によって拾い上げられる。



「あっ、辻本さん。はい。プリント、落としたよ」



伸びてきた手は、朝礼の時に絡まれていた山崎くんのものだったらしい。



山崎くんは、手にしたプリントを私の持っていた課題の上にそっと乗せてくれた。



「ありがとう、山崎くん」



「ううん。いいよ、このぐらい。それよりも、朝のホームルームの時、庇ってくれてありがとう。・・・掴まれてた所、大丈夫だった?」



心配そうに私のことを見つめる山崎くん。



その目は、憂いを帯びているようにみえた。



「え?全然大丈夫だよ、あんなのへでもないし」



「・・・そっか。なら、良かった・・・」



それだけ言い残すと、山崎くんは自分の席に戻って課題を机の上に並べ始める。


私も早く出さないとな・・・。



今度は1番上のプリントを落とさないようにしないと。

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