犬猿☆ラブコンフリクト


体育館についたと思った途端、整列させられて長ったらしい校長先生の話を聞かされる。



こんなにも不必要な時間はあるだろうか。



ろくに聞いていない話を小一時間聞かされるこっちも、誰も聞きてない話を考えてくるそっちも大変だろうに。



そんなことを考えていると、3年生の列の方から物音が聞こえザワザワと騒がしくなる。



物音がした方をむくと、女子生徒のひとりが顔面蒼白で座り込んでいた。



後ろで座って体を支えている男子に力なく寄りかかっている。



もしかして、倒れたのかな。



「貧血かな。先生!中島さんが倒れたんで、俺、保健室に運びますね」



傍で支えていた男子が倒れたであろう女子生徒を軽々と横抱きにし、保健室へと向かい歩き出す。



「うわ〜・・・中島さんを軽々とお姫様抱っこしてる・・・!」



「力持ちよね〜・・・!軽く惚れそうだわ」



3年生の女子がお姫様抱っこをして連れていく男子生徒の姿を見て騒ぎ立てる。



そう言えば、あの男子・・・私の中学の部活が一緒だった先輩に少し似てる気がする。



気のせい・・・かな?



結局倒れた生徒がいるから、という理由で始業式は大幅に縮小され、予定より15分ちかく早く終わってしまった。



「・・・さっき、すごく顔色悪かったみたいだけど・・・中島先輩、大丈夫かな・・・?」



教室に戻る最中、隣を歩いていた由紀が不安そうに口を開いた。



「さっき倒れた人、由紀の知り合い?」



「うん。バスケ部マネの先輩なの。練習メニューと練習試合のスコアの管理とか、私が苦手だからってほとんど中島先輩がやっててくれてたの。春休みの練習の時も顔色あんまり良くなかったから・・・もしかして、ずっと無理してたのかも・・・」



俯きながらポツリポツリと言葉を紡ぎ、眉間にシワを寄せてキュッと拳を握りしめる。



優しい由紀の事だ、“私が気付いていれば・・・”って、自分のことを責めてるんだろうな。



心の中でそう思っていると、正面からさっきの横抱きにして女子生徒を連れていった男子がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。



「あ、茂木さん」



「やぁ、由紀ちゃん」



由紀の知り合いだったらしく、両者とも満面の笑みであいさつを交わす。



ん・・・?由紀・・・今この人の事、“茂木さん”って呼んだ?



・・・もしかして・・・!



「・・・茂木 要(もぎ かなめ)先輩・・・?」



「あっ、覚えててくれた?そうだよ〜。茉弘ちゃんは相変わらず元気そうだね」



やっぱり・・・!



中学時代に同じバスケ部だった茂木先輩は、ニコニコと私の頭を撫で始める。



でも、昔の先輩はメガネをかけていたはず・・・コンタクトにしたのかな?



そのせいもあって中学時代の茂木先輩と印象がだいぶ違って見える。



「茂木さんっ・・・!中島先輩、大丈夫でした?」



「・・・中島さん、元々酷かった貧血がさらに悪化したみたい。今、検査のためにって病院に向かったよ」



「そう、なんですね・・・」



茂木先輩の言葉に不安の色を見せる由紀。



それもそうか・・・部活の先輩が病院に行ったんだもんね。



「あの感じだと、しばらくの間はマネージャーの仕事をしてもらうのは難しいな・・・」



困ったような笑みを浮かべる茂木先輩。



スコア管理とかは“なかじまさん”って人がほとんどやってたって言ってたから、由紀はあんまりやったことないんだっけ。



「・・・あ、そうだ。茉弘ちゃんって──」



「茂木〜!」



茂木先輩が私に話しかけようとした時、こっちに向かって走ってくる男子生徒が茂木先輩の言葉を遮るように声をかけてきた。



「先生が茂木のこと呼んでたぜ、早く行った方がいい」



「え、・・・分かった。・・・じゃあ、悪いけど、また後で」



茂木先輩はアワアワと少し戸惑う様子を見せたあと、そう言い残して走ってきた男子生徒と一緒にどこかへと行ってしまう。



今私に何を言いかけたんだろ・・・?

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