絶対通報システム
中庭に行くまでにある、職員室近くのトイレに私は入った。
まだ心臓が飛び跳ねている。
誰かに悪意を持って体を押されたなんてこと、初めてだった。
こんなに怖いことだったなんて……。
怖い。悲しい。悔しい。怒り。色々な感情が頭にも胸にも渦巻いて、今にもどこかから飛び出してしまいそうだった。こんなことされるの、おかしい。
「そうだ……嘘の通報が認められるくらい、システムが欠陥だらけなんだ。なら、私だって」
私はレポートデバイスを操作する。
【通報:篠原めぐみ・森明美・若乃由香】
『誹謗中傷なんてしてないのに、嘘の通報をされた。嫉妬で嫌味を言われ、体を押された。』
送信すると、画面のなかで黒い丸がくるくると回る。
もう、早くして。そして信用ポイントも戻して! 急ぐ私が画面を何度もタップすると、画面はようやく切り替わった。
――通報は承認されませんでした。
――あなたの信用ポイントは32です。通報する相手よりも社会的信頼度が低く、通報の正確性が疑われます。
――嫌がらせ目的の通報は信用ポイントを下げる原因にもなります。ご注意ください。
「……ふざけないでよっ!」
思わずレポートデバイスをトイレの壁に叩きつけそうになったけど、どうにか思いとどまる。
深呼吸して、落ち着いて。息を整えようとするけど、なかなかうまくいかない。
若乃さんが言ってた『通報が承認された時点で負けてんだよ』という言葉を思い出す。あの子たち、このことを知っていたんだ。信用ポイントが低いと、通報が受理されないってことなんだ。
レポートデバイスのヘルプを開き、文字を打ち込んでみる。
【信用ポイント 低い どうなる】
まるで私が聞きたいことがわかってるみたいに、レポートデバイスは文字を表示した。
【信用ポイントの数値は、通報するときにも考慮されます。社会的地位の低い方が、社会的に成功している方を妬む例は多々あり、そのための措置です。通報は、通報先と通報元のバランスも見て判断されます。なお、複数での報告があった場合、通報の信用度は増します。】
複数での場合信用度があがる……めぐみちゃんたち、これを利用したんだ。
こういうときに知恵が回る人っているけど、まさか仲良くしてためぐみちゃんがそんな人だったなんて……。
涙がまた溢れてくる。これからどうしたらいいんだろう。
ふらつく足取りで、トイレから出ると、ちょうど中庭に向かおうとしている横島くんがいた。
横島くんは私の姿を見ると、驚く。
「久代さん、どうしたの? 顔色悪いよ!?」
「ううん、ちょっと体調が悪くて。今日はご飯食べるのやめとくね」
心配して声をかけてくれる横島くんの気持ちが嬉しい。さっきあったことを全部話してしまいたくなる。でも、そんなこと話したらだめ。きっと横島くんに迷惑をかけてしまう。
「そっか。保健室、一緒に行こうか?」
「ひとりで行けるから大丈夫。ありがとう」
彼の言葉に甘えたくなる。だけど、めぐみちゃんとこんなことになってるなんて言えない。
心配そうな表情をしている横島くんを通り過ぎ、私はひとり保健室に向かった。
どうにか保健室に着くと、私があまりにも体調が悪そうに見えたのか、保健室の先生はすぐにベッドへ寝かせてくれた。白くて清潔なベッドシーツはひんやりとしていて、ここには暑さなんてないみたいだった。
「2年の久代さんね。熱はないけど、だいぶ辛そうだし……。阿部先生には私が話しておくから、早退してもいいわよ。親御さんに迎えにきてもらう?」
「ひとりで……帰れます」
「そう、無理しちゃだめよ。連絡だけは入れとくからね」
もう、今日は誰の顔も見たくない。あの教室に戻りたくない。
――私はなんでこのとき、教室から逃げてしまったんだろう。
もう少しだけ頑張っていれば、あんなことにはならなかったのかもしれないのに。
まだ心臓が飛び跳ねている。
誰かに悪意を持って体を押されたなんてこと、初めてだった。
こんなに怖いことだったなんて……。
怖い。悲しい。悔しい。怒り。色々な感情が頭にも胸にも渦巻いて、今にもどこかから飛び出してしまいそうだった。こんなことされるの、おかしい。
「そうだ……嘘の通報が認められるくらい、システムが欠陥だらけなんだ。なら、私だって」
私はレポートデバイスを操作する。
【通報:篠原めぐみ・森明美・若乃由香】
『誹謗中傷なんてしてないのに、嘘の通報をされた。嫉妬で嫌味を言われ、体を押された。』
送信すると、画面のなかで黒い丸がくるくると回る。
もう、早くして。そして信用ポイントも戻して! 急ぐ私が画面を何度もタップすると、画面はようやく切り替わった。
――通報は承認されませんでした。
――あなたの信用ポイントは32です。通報する相手よりも社会的信頼度が低く、通報の正確性が疑われます。
――嫌がらせ目的の通報は信用ポイントを下げる原因にもなります。ご注意ください。
「……ふざけないでよっ!」
思わずレポートデバイスをトイレの壁に叩きつけそうになったけど、どうにか思いとどまる。
深呼吸して、落ち着いて。息を整えようとするけど、なかなかうまくいかない。
若乃さんが言ってた『通報が承認された時点で負けてんだよ』という言葉を思い出す。あの子たち、このことを知っていたんだ。信用ポイントが低いと、通報が受理されないってことなんだ。
レポートデバイスのヘルプを開き、文字を打ち込んでみる。
【信用ポイント 低い どうなる】
まるで私が聞きたいことがわかってるみたいに、レポートデバイスは文字を表示した。
【信用ポイントの数値は、通報するときにも考慮されます。社会的地位の低い方が、社会的に成功している方を妬む例は多々あり、そのための措置です。通報は、通報先と通報元のバランスも見て判断されます。なお、複数での報告があった場合、通報の信用度は増します。】
複数での場合信用度があがる……めぐみちゃんたち、これを利用したんだ。
こういうときに知恵が回る人っているけど、まさか仲良くしてためぐみちゃんがそんな人だったなんて……。
涙がまた溢れてくる。これからどうしたらいいんだろう。
ふらつく足取りで、トイレから出ると、ちょうど中庭に向かおうとしている横島くんがいた。
横島くんは私の姿を見ると、驚く。
「久代さん、どうしたの? 顔色悪いよ!?」
「ううん、ちょっと体調が悪くて。今日はご飯食べるのやめとくね」
心配して声をかけてくれる横島くんの気持ちが嬉しい。さっきあったことを全部話してしまいたくなる。でも、そんなこと話したらだめ。きっと横島くんに迷惑をかけてしまう。
「そっか。保健室、一緒に行こうか?」
「ひとりで行けるから大丈夫。ありがとう」
彼の言葉に甘えたくなる。だけど、めぐみちゃんとこんなことになってるなんて言えない。
心配そうな表情をしている横島くんを通り過ぎ、私はひとり保健室に向かった。
どうにか保健室に着くと、私があまりにも体調が悪そうに見えたのか、保健室の先生はすぐにベッドへ寝かせてくれた。白くて清潔なベッドシーツはひんやりとしていて、ここには暑さなんてないみたいだった。
「2年の久代さんね。熱はないけど、だいぶ辛そうだし……。阿部先生には私が話しておくから、早退してもいいわよ。親御さんに迎えにきてもらう?」
「ひとりで……帰れます」
「そう、無理しちゃだめよ。連絡だけは入れとくからね」
もう、今日は誰の顔も見たくない。あの教室に戻りたくない。
――私はなんでこのとき、教室から逃げてしまったんだろう。
もう少しだけ頑張っていれば、あんなことにはならなかったのかもしれないのに。