絶対通報システム
森さんの話を聞いて、クラスのみんなが大人しくしている理由も想像がついた。
酒井くんを通報したのは絶対に私だけじゃない。
酒井くんが今までしてきた行動を考えれば、通報した人だって多いはずだ。
もし通報したことがバレたら、今の私みたいに森さんに恨まれる。だから、何も言えずに言うことを聞くしかないんだ。あくまでも、自分は“通報していない”みたいな演技をして……。
めぐみちゃんは、それを利用して私を貶めようとしている。私が昨日早退した午後に、着々とクラスメイトに情報を流したんだろう……。私がいないんだから、自由にその話をできたはずだ。
選択を誤ったことが悔しくて、奥歯を噛みしめる。
酒井くんのことはたしかに申し訳ないという気持ちもある。だけど、もともといじめをしていた酒井くんだって悪いはずだ。
横島くんのことに関しては他人になにか言われるのもおかしい。……だけど、横島くんはイケメンだし、人気がある。嫉妬や妬みもあいまって、この流れに乗っている人もいるのかもしれない。
そうだ。もうみんな知っているなら――
「みんなはおかしいと思わない? いじめを通報したら、またこうやっていじめが起こる! それって変だよ。私、先生に相談するから」
何人かの生徒が心配そうにこちらを見る。
めぐみちゃんは、大きな舌打ちをした。
「おかしいの杏里だよ。でしゃばって酒井くんのことを通報するし、私が横島くんのことを好きだってわかったら横島くんのこと狙い出してさ。今までもそうだったよね」
「今までって、そんなことしたこと一度もないよ」
「ね、こうやっていつもしらをきるの。人の心を弄んでるんだよ」
「ほんっと、サイテー」
若乃さんがめぐみちゃんに同調する。教室中の温度が下がったように感じた。
どうしようか悩んでいると、珍しく阿部先生が早めに教室に来た。
もう、ここで全て暴露してやる。
「先生! 篠原さん達が通報システムを使って私に嫌がらせをするんです! 嘘の通報なのに、それで信用ポイントがどんどん下がってしまって……」
先生は自分のレポートデバイスをちらりと見ると、いつものようにため息を吐いた。
いやな煙草のにおいがする。
「久代。お前の信用ポイント低いんだよ。先生になにか相談したいなら、信用ポイントを上げてからにしてくれるか? 時間がもったいないから」
少しだけ間があいてから、教室中に笑い声が聞こえた。
こんなにも人がいるのに、私は独りだった。
仲良しの子も、それなりに話せる子も、先生さえも、誰もいない。
信用ポイントがないということは、こういうことなんだ。
もし、ポイントが少ないままだったら、どうなるんだろう。
この気持ちを、どうしたら……。
私は教室を飛び出した。ここには、私の居場所なんてない。
居場所があったとしても、それはいじめられる役としてだ。生贄みたいなものだ。
そんなところにいてられるほど、強くない。
私は上履きのまま、学校をあとにした――
酒井くんを通報したのは絶対に私だけじゃない。
酒井くんが今までしてきた行動を考えれば、通報した人だって多いはずだ。
もし通報したことがバレたら、今の私みたいに森さんに恨まれる。だから、何も言えずに言うことを聞くしかないんだ。あくまでも、自分は“通報していない”みたいな演技をして……。
めぐみちゃんは、それを利用して私を貶めようとしている。私が昨日早退した午後に、着々とクラスメイトに情報を流したんだろう……。私がいないんだから、自由にその話をできたはずだ。
選択を誤ったことが悔しくて、奥歯を噛みしめる。
酒井くんのことはたしかに申し訳ないという気持ちもある。だけど、もともといじめをしていた酒井くんだって悪いはずだ。
横島くんのことに関しては他人になにか言われるのもおかしい。……だけど、横島くんはイケメンだし、人気がある。嫉妬や妬みもあいまって、この流れに乗っている人もいるのかもしれない。
そうだ。もうみんな知っているなら――
「みんなはおかしいと思わない? いじめを通報したら、またこうやっていじめが起こる! それって変だよ。私、先生に相談するから」
何人かの生徒が心配そうにこちらを見る。
めぐみちゃんは、大きな舌打ちをした。
「おかしいの杏里だよ。でしゃばって酒井くんのことを通報するし、私が横島くんのことを好きだってわかったら横島くんのこと狙い出してさ。今までもそうだったよね」
「今までって、そんなことしたこと一度もないよ」
「ね、こうやっていつもしらをきるの。人の心を弄んでるんだよ」
「ほんっと、サイテー」
若乃さんがめぐみちゃんに同調する。教室中の温度が下がったように感じた。
どうしようか悩んでいると、珍しく阿部先生が早めに教室に来た。
もう、ここで全て暴露してやる。
「先生! 篠原さん達が通報システムを使って私に嫌がらせをするんです! 嘘の通報なのに、それで信用ポイントがどんどん下がってしまって……」
先生は自分のレポートデバイスをちらりと見ると、いつものようにため息を吐いた。
いやな煙草のにおいがする。
「久代。お前の信用ポイント低いんだよ。先生になにか相談したいなら、信用ポイントを上げてからにしてくれるか? 時間がもったいないから」
少しだけ間があいてから、教室中に笑い声が聞こえた。
こんなにも人がいるのに、私は独りだった。
仲良しの子も、それなりに話せる子も、先生さえも、誰もいない。
信用ポイントがないということは、こういうことなんだ。
もし、ポイントが少ないままだったら、どうなるんだろう。
この気持ちを、どうしたら……。
私は教室を飛び出した。ここには、私の居場所なんてない。
居場所があったとしても、それはいじめられる役としてだ。生贄みたいなものだ。
そんなところにいてられるほど、強くない。
私は上履きのまま、学校をあとにした――