絶対通報システム
 昼休み、食欲はなかった。
 だけど、教室にはいられない。中庭にいくこともできない。
 どこにいこうか迷った私は、体育館の裏の隅っこでお弁当を広げていた。

 地べたに置いたお弁当と、うるさく鳴くアブラゼミの声。
 情けなくて、なんだか自分が可哀想になる。
 今まで、人間関係はうまくやってきた。
 いじめられるってこんな気持ちになるんだ。
 いつもなら一番に食べるハンバーグをお箸でつついていると、遠くに人の気配がした。
 
 もう、何度も見たシルエットだからわかる。真澄くんだ。

 真澄くんは私と視線が合ったのに気づくと、こちらに近づいてきた。

 彼もいじめられているとき、今の私みたいな気持ちだったんだろうか。なんてことが頭によぎる。

 座っている私を見下ろす真澄くんに、私は話しかけた。

「なに? 嫌味でも言いに来た? 私が避けてたのわかってるんでしょ。さぞいい気味でしょうね」

 こんなこと言いたくないのに、つい言ってしまう。
 強がってないと、あまりにも自分が情けなくて、可哀想で、どうしようもなくなりそうだった。

「あっち行ってよ。別に私、なんともないんだから」

「僕は、久代さんの力になりたい。もとはと言えば、僕のために通報してくれたのが原因じゃないか」

「やめときなよ。真澄くんもいじめられるよ」

「別にいいよ。僕はそういうの、慣れてるから」
 
 不気味だと思っていた真澄くんの言葉。彼の方を見ると、長い前髪からはまっすぐに私を見つめる瞳があった。これはきっと、嘘じゃない。

「……気持ちは嬉しいよ。だけど、どう今の状況を変えていけばいいかわかんないの。第一、私の信用ポイントが低すぎて……」

「いじめなんて間違ってるんだから通報すればいい。信用ポイントが低くても、通報できる方法があるんだ」

「え!?」

 真澄くんは自分のレポートデバイスを取り出すと、私に説明をはじめた。
 
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