絶対通報システム
「ただいま」
家に誰もいないのはわかっていたけど、この言葉は言わないといけない気がする。
ソファーにスクールバッグを乱暴に置いて、私は通報システムのタブレットを持った。
画面に触れると、スリープモードが解除される。
すると、画面には通知のようなものがいくつか表示されていた。
【このデバイスの名称は『レポートデバイス』といいます。装着していただいている指輪は『リングデバイス』です】
なるほど。
阿部先生が「ヘルプ機能がある」とは言っていたけど、こうやって色々教えてくれるものなのね。
なんだかスマホのアプリみたい。基本的にはスマホと同じような感覚で使えるみたいなので、私はさっそく【通報する】というアイコンをタップしてみる。
学校で酒井くんのことを通報しようにも、もしも通報してるところを見られてバレたら嫌だもんね。
【通報内容を選択してください】という表示が出て、選択肢がいくつか出てきた。
“人物を通報する”を選ぶ。
【通報したい人物の名前がわかりますか?】
ヘルプ:通報する人物がわからない場合、時間・場所を指定することでリングデバイスが該当人物の有無を確認します。
……すごい機能だ。このデバイスのどちらかに個人を識別する発信機みたいな役割があるのかもしれない。
とりあえず、誰かはわかっている。私は『はい』をタップし、レポートデバイスに通報内容を打ち込む。
【通報:酒井崇】
『真澄裕也くんをいじめています。肩を殴ったり、悪口を言ったり、夏休みの宿題を真澄くんにさせています。今日だけでなく、このクラスになってからずっと。今までも同じようなことが何度もありました。』
これで送信。さて、どうなるだろう。
レポートデバイスの画面では黒い丸がくるくると回っている。それが止まると、通知が届いた。
――通報を受理しました。
――酒井崇には同内容の通報が複数報告されています。
――侮辱罪・暴行罪・脅迫罪の可能性があります。
――酒井崇の信用ポイントが下がりました。
――酒井崇は登校禁止措置がとられます。
――通報、ありがとうございました。
次々と出てくる通知に目を忙しくさせる。信用ポイント? 登校禁止措置って書いてあったけど、どういうことだろう。ていうか、やっぱり私以外にも通報してた人がいたんだ。
ヘルプを確認しようかと考えたとき、玄関が開く音がした。
「杏里ー、帰ってるのー?」
なにか買い物をしてきたのだろう。ビニール袋が擦れる音と一緒にお母さんが帰ってきた。
「うん、おかえり。ってお父さんもいるんだ。珍しい」
お父さんはネクタイを緩めながら、廊下を歩いてくる。
「ああ。杏里にも学校から話があっただろ。通報システムの」
見ると、お母さんとお父さんにも右手小指にはリングデバイスがはめられていた。お母さんは冷蔵庫に忙しなく食材を入れながら、独り言のように呟く。
「30万円もらえるのは助かるけどねぇ、急に集められるのは迷惑よね。これだからお役所仕事は……」
あ、そうだ。30万円もらえるんだった。なにに使おう。高校に入る前にコスメを揃えたりしたいから、そのときのお金にしようかな。
うちは家族3だから90万円か。お母さん、旅行に行きたいって言ってたもんね。
いつもより少しだけ高そうなお惣菜が冷蔵庫に入るのを見届ける。お母さんはそんなに嫌がってないような気がした。
家に誰もいないのはわかっていたけど、この言葉は言わないといけない気がする。
ソファーにスクールバッグを乱暴に置いて、私は通報システムのタブレットを持った。
画面に触れると、スリープモードが解除される。
すると、画面には通知のようなものがいくつか表示されていた。
【このデバイスの名称は『レポートデバイス』といいます。装着していただいている指輪は『リングデバイス』です】
なるほど。
阿部先生が「ヘルプ機能がある」とは言っていたけど、こうやって色々教えてくれるものなのね。
なんだかスマホのアプリみたい。基本的にはスマホと同じような感覚で使えるみたいなので、私はさっそく【通報する】というアイコンをタップしてみる。
学校で酒井くんのことを通報しようにも、もしも通報してるところを見られてバレたら嫌だもんね。
【通報内容を選択してください】という表示が出て、選択肢がいくつか出てきた。
“人物を通報する”を選ぶ。
【通報したい人物の名前がわかりますか?】
ヘルプ:通報する人物がわからない場合、時間・場所を指定することでリングデバイスが該当人物の有無を確認します。
……すごい機能だ。このデバイスのどちらかに個人を識別する発信機みたいな役割があるのかもしれない。
とりあえず、誰かはわかっている。私は『はい』をタップし、レポートデバイスに通報内容を打ち込む。
【通報:酒井崇】
『真澄裕也くんをいじめています。肩を殴ったり、悪口を言ったり、夏休みの宿題を真澄くんにさせています。今日だけでなく、このクラスになってからずっと。今までも同じようなことが何度もありました。』
これで送信。さて、どうなるだろう。
レポートデバイスの画面では黒い丸がくるくると回っている。それが止まると、通知が届いた。
――通報を受理しました。
――酒井崇には同内容の通報が複数報告されています。
――侮辱罪・暴行罪・脅迫罪の可能性があります。
――酒井崇の信用ポイントが下がりました。
――酒井崇は登校禁止措置がとられます。
――通報、ありがとうございました。
次々と出てくる通知に目を忙しくさせる。信用ポイント? 登校禁止措置って書いてあったけど、どういうことだろう。ていうか、やっぱり私以外にも通報してた人がいたんだ。
ヘルプを確認しようかと考えたとき、玄関が開く音がした。
「杏里ー、帰ってるのー?」
なにか買い物をしてきたのだろう。ビニール袋が擦れる音と一緒にお母さんが帰ってきた。
「うん、おかえり。ってお父さんもいるんだ。珍しい」
お父さんはネクタイを緩めながら、廊下を歩いてくる。
「ああ。杏里にも学校から話があっただろ。通報システムの」
見ると、お母さんとお父さんにも右手小指にはリングデバイスがはめられていた。お母さんは冷蔵庫に忙しなく食材を入れながら、独り言のように呟く。
「30万円もらえるのは助かるけどねぇ、急に集められるのは迷惑よね。これだからお役所仕事は……」
あ、そうだ。30万円もらえるんだった。なにに使おう。高校に入る前にコスメを揃えたりしたいから、そのときのお金にしようかな。
うちは家族3だから90万円か。お母さん、旅行に行きたいって言ってたもんね。
いつもより少しだけ高そうなお惣菜が冷蔵庫に入るのを見届ける。お母さんはそんなに嫌がってないような気がした。