絶対通報システム
昼休みに、私とめぐみちゃんは机を向かい合わせにしていた。
うちの中学校はお弁当で、好きな人と好きなところで食べていいことになっている。
めぐみちゃんはお弁当を包んでいるバンダナをほどきながら話し始めた。
「ねぇ、朝すごかったね。あれだけ偉そうにしてた酒井があんなことになるなんて。実際酒井に迷惑かけられてた人も多いしさ、通報システムって良いシステムなのかもね」
「……かもしれないね。真澄くんも安心したと思う。あ、ごめん。ちょっと先にトイレ行ってくる」
「オーケー、先に食べとくからねー」
――めぐみちゃんは、酒井くんのこと通報しなかったんだ。そういえば、レポートデバイスに通知が来てた気がする。トイレに入る前に、私は廊下の隅でレポートデバイスを取り出し、通知を確認した。
――酒井崇への通報、ありがとうございました。
――酒井崇は一定の信用ポイントを下回ったため、■■■■と転校になりました。
――久代杏里の信用ポイントは『53ポイント』です。
なんだろ? 文字が黒くなって見えないところがある。
あと、信用ポイント。昨日も出てたけど、これってなに?
ヘルプ画面をタップし【信用ポイント】と入力してみると、説明文が出てきた。
【信用ポイント】
その個人の社会的信用度を数値化したもの。
信用ポイントは統合的な観点で判断される。
今後、進学・就職などにおいても重要視される。
なお、βテストでの数値は全国で通報システムが実装された際にも引き継がれる。
説明を見た瞬間に、背中に嫌な感覚が走った。
まるで、私という人間に点数をつけられているみたいに感じたからだ。
53点。それが私の点数……。
これって、高いんだろうか。低いんだろうか。
ふっと、後ろに誰かの気配を感じて振り向く。
「久代さん、画面見えちゃったよ。酒井のこと通報してくれたの、久代さんだったんだね」
……真澄くんだ。彼は朝からずっと笑顔で、正直不気味と感じるほどだった。酒井くんにいじめられてたから、それほど安心したのだろうけど。それでも……。
「う、うん……。やっぱり、いじめは見ていて気分のいいものじゃないし、良かったね。真澄くん」
「最高の気分だよ。ずっと憎かったやつがあんな風にビンタまでされてさ! 昨日通報システムが配られてワクワクしたよ。正しい者が怯える世界なんておかしいもんね!」
今まで誰とも喋らず、隅っこに隠れていたような真澄くんの姿はそこになかった。
「そうだね……それじゃ、私トイレ行くから。通報はきっと、ほかのみんなもしてくれたと思うよ」
「うん。久代さん、ありがとう。ずっと、心配してくれてたんだね」
言葉の使い方がちょっと怖い。テンションも高いせいか、私の話を聞いているようで聞いていない感じ。
私は逃げるようにトイレに向かった。
うちの中学校はお弁当で、好きな人と好きなところで食べていいことになっている。
めぐみちゃんはお弁当を包んでいるバンダナをほどきながら話し始めた。
「ねぇ、朝すごかったね。あれだけ偉そうにしてた酒井があんなことになるなんて。実際酒井に迷惑かけられてた人も多いしさ、通報システムって良いシステムなのかもね」
「……かもしれないね。真澄くんも安心したと思う。あ、ごめん。ちょっと先にトイレ行ってくる」
「オーケー、先に食べとくからねー」
――めぐみちゃんは、酒井くんのこと通報しなかったんだ。そういえば、レポートデバイスに通知が来てた気がする。トイレに入る前に、私は廊下の隅でレポートデバイスを取り出し、通知を確認した。
――酒井崇への通報、ありがとうございました。
――酒井崇は一定の信用ポイントを下回ったため、■■■■と転校になりました。
――久代杏里の信用ポイントは『53ポイント』です。
なんだろ? 文字が黒くなって見えないところがある。
あと、信用ポイント。昨日も出てたけど、これってなに?
ヘルプ画面をタップし【信用ポイント】と入力してみると、説明文が出てきた。
【信用ポイント】
その個人の社会的信用度を数値化したもの。
信用ポイントは統合的な観点で判断される。
今後、進学・就職などにおいても重要視される。
なお、βテストでの数値は全国で通報システムが実装された際にも引き継がれる。
説明を見た瞬間に、背中に嫌な感覚が走った。
まるで、私という人間に点数をつけられているみたいに感じたからだ。
53点。それが私の点数……。
これって、高いんだろうか。低いんだろうか。
ふっと、後ろに誰かの気配を感じて振り向く。
「久代さん、画面見えちゃったよ。酒井のこと通報してくれたの、久代さんだったんだね」
……真澄くんだ。彼は朝からずっと笑顔で、正直不気味と感じるほどだった。酒井くんにいじめられてたから、それほど安心したのだろうけど。それでも……。
「う、うん……。やっぱり、いじめは見ていて気分のいいものじゃないし、良かったね。真澄くん」
「最高の気分だよ。ずっと憎かったやつがあんな風にビンタまでされてさ! 昨日通報システムが配られてワクワクしたよ。正しい者が怯える世界なんておかしいもんね!」
今まで誰とも喋らず、隅っこに隠れていたような真澄くんの姿はそこになかった。
「そうだね……それじゃ、私トイレ行くから。通報はきっと、ほかのみんなもしてくれたと思うよ」
「うん。久代さん、ありがとう。ずっと、心配してくれてたんだね」
言葉の使い方がちょっと怖い。テンションも高いせいか、私の話を聞いているようで聞いていない感じ。
私は逃げるようにトイレに向かった。