絶対通報システム
「よ、横島くん!?」

 めぐみちゃんは驚きながらも、さっと前髪を整える。

 それもそうだろう。横島くんは2年のなかでもトップを争うイケメンだもん。サッカー部で足も早いから、1年のときの体育祭でも目立っていた。

 足だってすごく長い。センター分けにしている黒髪もおしゃれだし、女子の間では人気のユーチューバーに似ていると盛り上がっていた。


「中庭で食べるの暑いだろ。 どうしたの?」

「それは、ちょっと……」


 私が言葉を濁していると、めぐみちゃんは間に入るようにして喋り始めた。

「それがさ、真澄のやつのせいなんだよ。酒井くんが転校になってから、なんか杏里につきまとってきてんの。教室でもずっと見てくるから気持ち悪くてさ、それで中庭にお弁当食べようってなったのに……」

「なったのに?」

「見てよ、あれ」

 めぐみちゃんが顎と視線だけで渡り廊下を教える。

 そこには、こちらを見つめる真澄くんの姿があった。

「うっわ……ストーカーみたいなこと?」

「かもしれない。わたしたち、迷惑してるんだよ」

「いや、きっと今まで酒井くんにいじめられてたから、今は誰かと話したいって思ってるんじゃないかな。少しだけ、私が我慢すればいいだけだから……」

 できるだけ、事を大きくしたくないのが私の本音だった。

「いや、杏里だけじゃなくわたしも迷惑してるからね?」

 めぐみちゃんがため息混じりに言う。

 横島くんは私たちを交互に見ると、ぽんと私の頭に手を置いた。

「しゃーねーな。俺がちょっと注意してきてやるよ」

「え、でも……」

 私の言葉を聞かずに、横島くんは真澄くんの方へ歩いていく。

「横島くんやばっ! さっとこんなことしてくれるのマジでイケメンなんだけどぉ!」

 めぐみちゃんは祈るようなポーズで横島くんの背中を見つめる。
 横島くんが真澄くんに何か伝えると、彼は小走りでどこかに去っていった。

 どこか困ったような表情で笑いながら、横島くんはもどってくる。

「女子を熱心に見るのは怖がらせるだけだからやめとけよーって言ったら、顔真っ赤にして逃げちゃった」

「なにそれウケる!」

「もう、大丈夫だと思うよ」

「本当にありがとうね! ほら、杏里も」

「あ、ありがとう……」

「いいよ。もし真澄が変なことしてきたら、すぐ俺に言ってこいよ」

「は、はい……」

 めぐみちゃんの目はハートになっている。
 これはしばらく、横島くんの話題が尽きないだろうな。
< 8 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop