NEVER~もう1度、会いたい~
サムライブル-の第2戦は3-1の快勝。通算成績は1勝1敗となり、本戦出場に望みを繋いだ。それをテレビで見届けた翔平は、迎えの看護師に促されて、ベッドを降りた。車イスに座り、向かった先は診察室。


「おう、よかったな。」


中に入ると、黒部がにこやかな表情で声を掛けて来た。お互い試合が気になるから、今日の診察は試合の後にしようと、とぼけたことを言って来たのは黒部の方だった。


「ええ。今日は日本のいい面が出ました。これがサムライブル-の本来の実力ですよ。」


応じた翔平に


「どうだ、予選最終戦、勝てるか?」


遠慮会釈なく黒部は聞く。


「もちろんです、というか勝ってもらわなければ困ります。」


「そうか?あんたの立場じゃ、そう言うしかないんだろうけど、正直厳しいんじゃねぇのか?」


「先生!」


憤然とする翔平に


「まぁいいや。俺も別にサムライブル-に負けて欲しいわけじゃないからな。最終戦は声を枯らして応援するよ。」


笑った黒部は


「本当は最終戦は主治医の特権で、あんたと一緒に見ようと思ってたんだが、そうもいかないらしい。」


と告げた。


「えっ?」


「向こうの受け入れ体制が整ったそうだ。朝に撮ったMRIの画像も特に問題は見られない、ということで最終戦は温泉にでも浸かりながら、のんびり応援するんだな。」


「出発はいつですか?」


「明後日の予定だ。向こうのスタッフが迎えに来るから、お昼には出発だな。」


「わかりました。」


「俺もたまには顔を出すつもりだが、申し訳ないがそんなに頻繁には無理だから、コイツを定期的に通わせる。コイツにとってもいい勉強になるからな。」


「よろしくね。」


「ああ、こちらこそ。」


そんな言葉を交わしながら、恵は翔平の表情を窺ったが、彼の表情に特に変化はなかった。


その後、モヤモヤした気分を引き摺ったまま、勤務を終えた恵が、送迎バス乗り場に向かっていると


「本多先生。」


と呼び止められた。


「朱莉さん。」


「お帰りですか?」


「ええ。」


「私も翔平の病室からの帰りで。よかったら乗って行かれませんか?駅までお送りしますよ。」


「えっ、でも・・・。」


躊躇う恵に


「実はお話したいこともあるので、どうぞ。」


朱莉は笑顔で言う。


「私にですか?」


「ええ。ですから、お急ぎでなければ是非。」


と言われてしまえば、恵も無碍には断れない。結局、誘われるままに、朱莉の助手席に納まった。


「それで・・・私にお話って・・・?」


車がスタ-トして、すぐに尋ねる恵に


「先生にお別れを申し上げたくて。」


前を向いたまま、朱莉が答える。


「えっ?」


「転勤になったんです。この度、叔父の命でアメリカに赴任することになりまして。それでもう病院にはお邪魔出来なくなりました。」


「それって・・・。」


「ちょうどよかったんです、そろそろ潮時ですから。」


「朱莉さん・・・。」


戸惑う恵に


「私の役目は・・・終わりました。」


そう告げた朱莉。運転中で前を向いたままのその横顔には、何の変化も見られず、恵は息を呑んだ。
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