NEVER~もう1度、会いたい~
そして院内では自らが使用禁止にした車イスに乗った翔平と共に、未来は病院を出た。陽はすでに西に傾き、温暖な気候で知られる伊東だが、その空気はさすがに秋の気配を濃くしていた。


病院の裏手に流れる川の岸辺に出た2人。


「本当だ、いい感じで紅葉して来たな。病室から見えないのが残念だ。」


予想以上の眺めに、翔平がそう漏らすと


「うん。それに、こうやって見ると、桜の木も結構植わってるね。」


未来が言う。


「そうだな。」


「だったら来年の春こそ・・・一緒に桜、見られるかな?」


その未来の言葉に、ハッと翔平は横に立つ彼女の顔を見つめる。


「12年前の約束・・・翔くんは覚えてる?」


やや遠慮がちに言う未来に


「忘れるわけねぇだろ。」


ややぶっきらぼうに答えた翔平は、次にニヤッと笑って見せる。それを見て、ホッとしたような表情を浮かべた未来に


「1つ聞いてもいいか?」


翔平が聞く。コクリと頷く未来に


「どうしてここに来たんだ?俺を追いかけて来てくれたって思うのは、うぬぼれが過ぎるか?」


翔平は彼女を見上げながら尋ねる。


「半分正解・・・かな?」


「半分?」


「あなたが伊東に転院するって、恵から聞いた時、一緒に付いて行きたいって、正直に思った。でもその私の気持ちは今更、翔くんにとっては迷惑かもしれないし、なにより個人的感情以外の何ものでもない理由で、異動願いを職場に出すのはやっぱり躊躇われた。」


「未来・・・。」


「でもね、そしたら本当に異動話が持ち上がったんだよ。ただし対象者は別の人、夏目志穂っていう年下の先輩なんだけど、私にこう言って来たんだよ。『私、あんな田舎勤務なんてごめんだから、代わりにあなたが行きなさいよ。』って。」


「ちょっと待て。今、夏目志穂って言ったか?」


驚いたように聞き返す翔平に


「うん、翔くんの高校の時の2年後輩なんだってね。本当につい最近知った。」


未来は答える。


「とにかく私はなぜかずっと目の敵にされてて。なんなんだろう、この人って思ってたんだけど、その理由もやっとわかった。原因は翔くんだったんだよ。」


「えっ、俺?」


「私、知らないうちに夏目さんに恨まれてたみたい。翔くんが全然自分のことを相手にもしてくれないのは、私のせいだって。そしたら数年後、なんと職場に私がノコノコ現れたから・・・。」


「マジかよ。アイツ、何考えてるんだ?」


翔平は呆れた声を出す。
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