NEVER~もう1度、会いたい~
「転勤の件も、もちろん本人は憂さ晴らしの嫌がらせのつもりだったみたいだけど、私はチャンスだと思って、看護師長に直訴したの。『夏目さん、行きたくないみたいだから、代わりに私が行きます』って。師長は『はぁ?』って顔してたし、私もダメ元のつもりだったんだけど、たぶん黒部先生とかも裏で動いてくれたんだと思う。なんと、その希望が通っちゃったんだよ。」


「・・・。」


「そしたら、ここに翔くんが転院するのを知った夏目さんが慌てて、やっぱり自分が行くって言い出して、それを聞いた師長が『もともとあなたが行きたくないなんて我が儘言い出したから、こうなったんでしょ。転勤拒否なんて、本来なら懲戒解雇なのよ、いい加減にしなさい!』って、一喝してくれて。そんな経緯で私は今、ここに居ます。」


そう言って、笑顔を見せた未来だったが、すぐに表情を引き締めると


「翔くん。」


改めて、翔平に呼び掛けた。


「どうした?」


「ありがとう。」


「えっ?」


「高校の頃、夏目さんや朱莉さんたちに、私のこと、大切な人だって言ってくれてたんだってね。それどころか、それからもずっと・・・理由も行き先も告げずに、黙って消えてしまった私のことを・・・。私にそんなことを言ってもらえる資格なんかなかったのに。翔くんに怒られても嫌われても当然だったのに・・・。」


「そんなの・・・当たり前じゃねぇかよ・・・。」


そっぽを向いて、ぶっきらぼうに答える翔平。でもそれは昔から変わらない、照れ隠しをする時の彼の仕種だ。


「実はこの前、私は一番大切なことを話してない。」


「大切なこと?」


「このままなら、君の命はあと2~3年しかもたない。だからもう一か八か、成功率2割にも満たない手術を、それも海外で受けるしかないって、本当に突然言われた。私、目の前が真っ暗になったよ。小さい頃から今までの入院生活はなんだったのって憤りも覚えたし、そんな難手術が成功するとはとても思えなかったから、正直自暴自棄にもなりかけた。」


「・・・。」


「でもね、その時、翔くんの顔が浮かんで来たんだ。翔くんの『絶対に諦めるな』って言ってくれる声が聞こえて来たんだよ。その声を聞いた時、私は生きたいと思った、生きて、翔くんとずっと一緒にいたい、いられるようになりたいって、痛切に思ったの。だから怖かったし、不安だったけど私は手術を受ける決心がついたんだよ。」


「未来・・・。」


「でも結局、手術は1回では終わらなかった。やっぱりダメなんだって、何度も諦めかけて、でも、その度に私は翔くんの顔を思い出して、翔くんと過ごした日々に思いを馳せて、絶対に元気になって、日本に帰るって思って頑張れたんだよ。翔くんに力と勇気を貰ったお陰で、私は今、ここに居られるんだよ。今更だけど、翔くん、本当にありがとう。」


「お前の力になれてたんだな、俺。なら・・・よかったよ。」


そう言うと、翔平は穏やかに、嬉しそうに笑った。
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