NEVER~もう1度、会いたい~
そして、今。未来はまだ見ぬ、愛しい人との愛の結晶と共に、グラウンドを駆け回る翔平に声援を送っている。


未来は人込みが苦手だった。心臓病は医学的には完治しているはずなのに、人込みに入ると、息苦しさを覚え、耐えられなくなるのだ。それが・・・理由は全く分からないが、身籠った途端に平気になった。ずっと諦めていたスタジアムでの生観戦が可能になったのだ。


(不思議なもんだな、人間の身体って・・・。)


未来はしみじみと実感している。


試合は0-0のまま、ハーフタイムに突入した。


「押してるんだけどなぁ、なんかもどかしい。」


「大丈夫。後半は翔くんが2ゴール決めて、2-0で日本が勝つよ。」


歯がゆそうな隣の恵に、未来が自信たっぷりに告げる。


「えっ、それはなにゆえ?」


(じゅん)くんが教えてくれた。ねっ?」


不思議そうに尋ねてくる親友に、未来は笑顔で答えると、そっとお腹に手をやる。既に臨月を迎え、今回夫と共に帰国した未来は、このまま日本に残って、里帰り出産に臨むことになっていた。性別は男の子だとわかっていて、2人はその子に「淳平(じゅんぺい)」と名付けることを決めていた。


「まさか、いくらなんでも・・・。」


と、呆れ顔の恵だったが、後半開始早々、翔平がロングシュ-トを豪快に決めて見せると


「えっ・・・?」


信じられないと言わんばかりに、未来の顔を見ると


「ねっ、言った通りでしょ。翔くん、ナイスゴ-ル~。もう1点、よろしくね~。」


未来は満面の笑みで、グラウンドに向かって、手を振っている。


先制点を挙げたサムライブル-は、大歓声の後押しも受け、いよいよ相手を圧倒する勢いで、ピッチを躍動する。その中心に翔平がいることは言うまでもなく、ゆえに彼に対する相手チ-ムのマークは当然厳しくなる。


「よし、繫がった!」


そんな中、翔平にパスが通った。恵が声を上げ、翔平がゴールを目指して走る。スタジアムが歓声に包まれるが、相手も彼の独走を易々と許してはくれない。なんとか致命傷になりかねない2失点目は阻止しようと、翔平にチャ-ジをしかける。


「翔くん!」


未来の悲鳴が上がる。翔平が倒れ込み、プレ-が中断する。4年前の悪夢が蘇り、スタジアムは一瞬静まり返ったが、翔平は何事もなかったかのように、すぐに立ち上がると、接触した相手選手と握手を交わし、ポジションに戻る。


「よかった・・・。」


未来が思わず漏らした言葉には、実感がこもっていた。
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