NEVER~もう1度、会いたい~
勤務を終え、病棟を出た未来。胸の中にモヤモヤしたものを感じてはいたが、この日、恵は休みで、彼女の他に整形外科に親しい人もいない。未来は大人しく更衣室に向かうしかなかった。


更衣室に入って、帰り支度を始めた未来の耳に


「ウチの病院も恥、かいちゃったね。」


「仕方ないんじゃないの?だって京王記念病院とウチじゃ、ハナから勝負にならないからね。」


「まぁね、高城選手が最初にウチに入院したのも、所詮はスタジアムから一番近いっていう地理的な理由だけだからね。」


なんて声が聞こえて来る。次の瞬間、未来は


「それってどういうことですか?」


思わずその声の主たちに、勢い込んで尋ねていた。突然割り込んで来た未来の顔を、彼女たちは呆気に取られて見たが


「この記事の話をしてたんだよ。」


と1人が、スマホの画面を見せて来た。


「見せていただいてもいいですか?」


未来が言うと、彼女はスマホを差し出して来た。お礼を言って受け取った未来は、表示されていたネットニュ-スを読み始めた。


あるスポ-ツ紙が配信したその記事によると、翔平自身は少しでも早く手術を受けたいと、城南大学病院での手術を希望したが


「ベストを尽くすべきだ。」


という言い方で彼の所属クラブが猛反対、それに日本サッカ-連盟も同調。クラブ側は、自国ドイツの病院での手術を強く勧めて来たが、連盟が関係の深い京王記念病院を推し、結局同病院の遠山英雄(とうやまひでお)整形外科部長自らが執刀するという条件で、クラブ側が納得をして、この転院となったとのことだった。


「遠山先生って、日本のスポ-ツ外科医としては、トップクラスの先生でしょ。最近じゃ滅多に自らメスを入れることはないみたいだけど、その人とウチのべらんめぇ先生じゃ、余計勝負にならないよね。」


未来が返して来た携帯を受け取りながら、彼女は笑った。


「ありがとうございました。」


それには答えずに、丁寧にお礼を言って、未来は彼女たちから離れた。事情は分かったが、未来の気持ちはなぜか晴れなかった。
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