NEVER~もう1度、会いたい~
そのニュ-スを聞いた未来は暗澹たる気持ちになった。再検査の為の渡独ということは、翔平の現在の症状が思わしくないということの証明であった。


(いろいろ噂はあったけど、結局そういうことだったんだ・・・。)


「結局、遠山先生でも手に負えない程の重傷だったってことだよね。」


「よかったね、うっかりウチの病院で手術引き受けなくて。もしやってたらとんだ赤っ恥かくどころか、大バッシング受けてたかも。」


「そうだねぇ、危ない、危ない。」


そんな話で盛り上がっている同僚たちの姿を見ると、怒りがこみ上げてくるが、当事者でも関係者でもない彼女たちの言動に腹を立てていても仕方ないことだ。


(そういう私だって、所詮は部外者・・・。)


心配は出来ても、それ以上のことは何も出来ない。未来はギュッと唇を噛み締め、ナースステ-ションを出る。


この日、理央が退院することになっていた。1度予定が延期になってしまってからほぼひと月、ようやく主治医の許可が下りたのだ。病室に入ると、既に荷物をまとめ終わり、これまでのパジャマではなく、外出着に着替えた理央が、ちょこんと椅子に腰かけていた。


「理央ちゃん、もう準備万端?」


未来が声を掛けると


「はい。今、お母さんが退院手続きに行ってるので、待ってるところです。」


理央は明るく返事を返した。


「退院、おめでとう。」


「ありがとうございます。さっき、院内学級のみんなにも挨拶して来て、よかったねって言ってもらいました。」


そう言った理央の表情は、複雑だった。院内学級には、退院の目途など全く立たない生徒、児童もいる。彼らにとって、退院していく仲間の存在は羨望の対象であり、逆にそんな仲間たちを残して去って行く方にも喜びを前面に表せない後ろめたさのような感情がある。理央はその両方の立場を経験しているし、未来にもその場の何とも言えない微妙な空気感が目に浮かぶようだった。


「でも夏休み中に退院出来てよかったね。」


雰囲気を変えようと、未来が笑顔で言うと


「友達との約束も、真くんとの夏祭りもダメになっちゃいましたけど、でもまだ夏休みは残ってますから。」


理央も気を取り直したように笑顔で答える。


「そうだね、しっかり楽しまないとね。」


「はい。」
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