馬鹿な君へ
「大丈夫だ。バレているわけがない」

ごくり、唾を呑み込みコップに麦茶を注いだ。それを持ったままソファへ移動した。
心拍数が上昇しているのを抑えるようにして深呼吸をする。そして麦茶を一気に呑み込む。
そのあと、テーブルにそれを乱暴に置いた。
テレビからはドラマが流れていた。
どんな不倫の話なのだろうかと気になった。

だがおかしいのだ。10分経とうとそういったシーンもなければ登場人物もおかしい。
学生が中心になって物語が進んでいる。たまたま回想しているシーンが多いだけなのだろうか。
気になってドラマのタイトルを調べた。
そして絶句した。

「…どういう、ことだ…―?」

それをスマートフォンで検索を掛けるがやはり青春ドラマだった。不倫のドラマではなかった。じゃあ、一体彼女は何を見ていた?
気になって今期のドラマを片っ端から調べた。しかし、不倫のドラマは何も出てこない。
「…どうして、」
混乱している最中、寝室のドアが開いた。
振り返るとそこには寝ていたはずのすずが立っていた。
「寝ないの?」
いつも通りの彼女だ。なのに、ぞわぞわと不快な感覚が全身を包む。
「寝るよ、ちょうど麦茶飲んでいたんだ。シャワー浴びてから寝る」
「そうなんだ」
「すず、寝てなかったのか」
本人に訊けばいい。それだけなのに、それが出来ない。
すずの顔からいつもの柔和な笑みが消えた。
「寝てたよ。でもドラマの録画するの忘れてて」
「…あ、そうなのか」
頬が引き攣っているのが自分でもわかる。
「なぁ、すずの好きなドラマって何てタイトル?」

すずは言った。




「馬鹿な君へってタイトルだよ」




END
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