たった一言を君に
中学生になると、声は出せないけれど先生の板書をノートに写すことは可能になった。そのため、中学校は何とか通うことが出来たが(先生たちの配慮もあり)、もちろん友人は一人もいない。
それなりに勉強だけは出来たため、高校受験も無事合格することが出来た。
高校一年生の最初のクラスでは虐めこそなかったが、皆がゆきを避けるようにしていたのはわかっていた。
同じ中学だった生徒が“小倉ゆきは喋ることが出来ないから話しかけない方がいい”というのをクラスの人に話しているのを聞いてしまった時は複雑な心境だった。
確かにどうせ自分は喋ることが出来ないのだ。だったら話しかけてもらわない方が楽ではある。
今朝のバス停の出来事のように謝りたくても謝ることすらできない。
だったら最初から関わらないのがベターだ。
昇降口を抜けて靴を履き替えると見慣れた学校の階段を上る。
二年生の教室は二階にある。するとすぐにざわざわと生徒が一か所に集まっているのが目に留まる。おそらく新しいクラスを確認しているのだと思った。
ゆきも同様に群がる生徒たちの間から顔を出して自分の名前を探した。
(三組かぁ…一年の時も三組だったな)
二年三組ということが分かったので、くるりと体の向きを変えて自分のクラスへ向かった。
教室のドアをガラガラとレールの上を走らせて開けると既に「よかった。一緒のクラスだ!」「よかったよね」などと仲の良い友人同士ではしゃいでいる姿が視界に入る。
俯いたまま自分の席を探す。最初は名前順らしく既に黒板に席と名前が張り出されている。
ゆきが自分の席を確認していると、背後から声がした。
「佑真どこ?席」
「俺は、ちょうど真ん中だ」
「マジか~でも多分すぐ席替えあるよな」
「だろうな」
それに反応してビクッと肩を揺らす。
背後にはゆきと同じように席を確認している男子二人が立っていた。
そのうちの一人に見覚えがあった。先ほどバスで一緒だった男子だ。
“ユウマ”と呼ばれていた彼は身長も高く間近で見ると眉目秀麗でそれでいて友人と会話をするときの笑顔が眩しかった。まるで少女漫画に出てくるような男子だ。
目が合った。つい顔を引き攣らせてしまったのは、決して彼のことが嫌いとかそういうことではない。ただ単純にどうしていいのか分からなくなってしまったのだ。
辛うじて体は動くからすぐに視線を逸らして自分の席へ戻った。
本当はみんなと仲良くなりたいけれどゆきにはそれが叶わないことはわかっていた。
だって、喋ることが出来ないのだから…―。
それなりに勉強だけは出来たため、高校受験も無事合格することが出来た。
高校一年生の最初のクラスでは虐めこそなかったが、皆がゆきを避けるようにしていたのはわかっていた。
同じ中学だった生徒が“小倉ゆきは喋ることが出来ないから話しかけない方がいい”というのをクラスの人に話しているのを聞いてしまった時は複雑な心境だった。
確かにどうせ自分は喋ることが出来ないのだ。だったら話しかけてもらわない方が楽ではある。
今朝のバス停の出来事のように謝りたくても謝ることすらできない。
だったら最初から関わらないのがベターだ。
昇降口を抜けて靴を履き替えると見慣れた学校の階段を上る。
二年生の教室は二階にある。するとすぐにざわざわと生徒が一か所に集まっているのが目に留まる。おそらく新しいクラスを確認しているのだと思った。
ゆきも同様に群がる生徒たちの間から顔を出して自分の名前を探した。
(三組かぁ…一年の時も三組だったな)
二年三組ということが分かったので、くるりと体の向きを変えて自分のクラスへ向かった。
教室のドアをガラガラとレールの上を走らせて開けると既に「よかった。一緒のクラスだ!」「よかったよね」などと仲の良い友人同士ではしゃいでいる姿が視界に入る。
俯いたまま自分の席を探す。最初は名前順らしく既に黒板に席と名前が張り出されている。
ゆきが自分の席を確認していると、背後から声がした。
「佑真どこ?席」
「俺は、ちょうど真ん中だ」
「マジか~でも多分すぐ席替えあるよな」
「だろうな」
それに反応してビクッと肩を揺らす。
背後にはゆきと同じように席を確認している男子二人が立っていた。
そのうちの一人に見覚えがあった。先ほどバスで一緒だった男子だ。
“ユウマ”と呼ばれていた彼は身長も高く間近で見ると眉目秀麗でそれでいて友人と会話をするときの笑顔が眩しかった。まるで少女漫画に出てくるような男子だ。
目が合った。つい顔を引き攣らせてしまったのは、決して彼のことが嫌いとかそういうことではない。ただ単純にどうしていいのか分からなくなってしまったのだ。
辛うじて体は動くからすぐに視線を逸らして自分の席へ戻った。
本当はみんなと仲良くなりたいけれどゆきにはそれが叶わないことはわかっていた。
だって、喋ることが出来ないのだから…―。