君の音がなくても
「……別れたいんだ」


 ようやく切り出したけれど、和心ちゃんの反応が怖くて、顔が上げられない。


 僕と和心ちゃんの間に沈黙の時間が流れて、周りが賑やかなぶん、それが長く感じた。


「わかった」


 和心ちゃんの声で、僕は顔を上げる。


 和心ちゃんは平気そうに言うから、僕は泣きたくなった。


 こんなにもすんなりと受け入れられるとは、思っていなかった。


「……じゃあね」


 和心ちゃんに対して言いたいことは、たくさんあった。


 だけど、それを言う勇気がなくて、僕はその場から逃げ出した。


 ずっと、和心ちゃんに好かれている自信がなかった。


 僕たちは趣味も考え方も合わなくて。


 僕が告白したから、和心ちゃんはそれに付き合ってくれただけ。


 そんな感じがしてから、僕は和心ちゃんの隣にいる自信がなくなって、別れるという選択をした。


 思っていた以上にあっさりと終わってしまって、悲しいよりも悔しいという気持ちが勝ってくる。


 涙が落ちそうになって、僕は落ちる前に拳で涙を拭う。


 そのとき、手に紙袋を持っていたことを思い出した。


 最後に和心ちゃんにプレゼントを渡そうと思って、持っていたんだった。


 中に入っているのは、和心ちゃんに似合うであろう、赤いマフラー。


 一度、和心ちゃんには赤色が似合うと言ったことがあったけど、結局和心ちゃんが赤色の物を身につけているところを見たことがなかった。


 きっと、嫌だったんだろう。


 もしそうなら、渡さなくてよかったのかもしれない。


 かといって捨てることもできなくて、僕はそれを家に持ち帰った。
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