君の音がなくても
◇
部屋に戻ると、ベッドの上に赤色のパーカーが脱ぎ捨てられている。
あれは付き合い始めたばかりのデートでのことだ。
ショッピングモールに行ったのはいいけど、趣味が合わないから、お互いに気まずい空気を纏いながら、適当に歩いていた。
そのとき、ふと、紅が足を止めた。
視線の先にあるのは、赤色のニット帽。
『気になるの?』
私が聞くと、紅は首を横に振った。
『和心ちゃんに似合うと思って』
『私? 赤なんて似合うかな』
『和心ちゃんには赤が似合うと思うよ』
私はそれが、私には紅が似合うと言われているような気がして、くすぐったい気持ちになった。
紅が似合うと笑って言ってくれた、私の色。
だけど、赤色なんて普段身につけないから、実際に赤色のものを買うことは少なかった。
服なんて、言われたその日に浮かれたこのパーカーだけだ。
一度も紅の前で着たことないけど、冬になると、私は毎日のように赤色のパーカーに袖を通した。
最初はいつも紅がそばにいる感じがして照れくさかったけど、今ではこれを当たり前だと思って着ている。
紅に対してもそう思っていたのかもしれない。
だから私は、別れを切り出された。
紅を大切に思うことが、できなかった。
私だって、自分に対してそう思っている人とはいたくない。
この結末は、私が招いたのだ。
大丈夫。
紅がいない日常に戻るだけ。
たった、それだけのことだ。
それだけの、こと……
あれは付き合い始めたばかりのデートでのことだ。
ショッピングモールに行ったのはいいけど、趣味が合わないから、お互いに気まずい空気を纏いながら、適当に歩いていた。
そのとき、ふと、紅が足を止めた。
視線の先にあるのは、赤色のニット帽。
『気になるの?』
私が聞くと、紅は首を横に振った。
『和心ちゃんに似合うと思って』
『私? 赤なんて似合うかな』
『和心ちゃんには赤が似合うと思うよ』
私はそれが、私には紅が似合うと言われているような気がして、くすぐったい気持ちになった。
紅が似合うと笑って言ってくれた、私の色。
だけど、赤色なんて普段身につけないから、実際に赤色のものを買うことは少なかった。
服なんて、言われたその日に浮かれたこのパーカーだけだ。
一度も紅の前で着たことないけど、冬になると、私は毎日のように赤色のパーカーに袖を通した。
最初はいつも紅がそばにいる感じがして照れくさかったけど、今ではこれを当たり前だと思って着ている。
紅に対してもそう思っていたのかもしれない。
だから私は、別れを切り出された。
紅を大切に思うことが、できなかった。
私だって、自分に対してそう思っている人とはいたくない。
この結末は、私が招いたのだ。
大丈夫。
紅がいない日常に戻るだけ。
たった、それだけのことだ。
それだけの、こと……